岸田文雄首相が発表した17兆円規模の大型経済対策の目玉は所得税と住民税の減税だが、国民にその恩恵が届くのは来年6月と遅く、その評判は徹底的に悪い。さらに副大臣や政務官の不祥事、辞任が相次ぎ、国民からの信頼はいまや地に落ちている。こうしたなか、「岸田おろし」を思わせる動きが自民党内で徐々に出始めた。
裏目の経済対策と閣僚の「自民ドミノ」で崖っぷちの岸田内閣
岸田政権の支持率低下が止まらない。時事通信社が11月16日に発表した世論調査の結果=内閣支持率21.3%。は、2012年に自民党が政権に復帰して以降、歴代内閣で過去最低の数字となった。同社が10月に実施した前回調査時の支持率26.3%ですら岸田政権で最低の数字で、政権を維持するには「危険水域」と言われていた。にもかかわらず、そこからさらに5ポイントも下げたことは永田町でも驚きを以って受け止められている。
崖っぷちの岸田文雄首相(本人Facebookより)
永田町関係者からは「岸田政権の支持率は下げ止まらず、このまま2割を切るのではないか」との声も。支持率が暴落している背景には、岸田首相が打ち出した経済対策が国民生活と乖離しており裏目に出ていることが挙げられる。17兆円規模にも及ぶ経済対策では、岸田首相が「増税メガネ」のニックネーム払拭にこだわるあまり、来年6月になってようやく恩恵が届く所得税や住民税の4万円減税が目玉となっている。そのなかで、内閣府が15日に発表した7~9月期の国内総生産(GDP)は年率換算で2.1%減となり、3期ぶりのマイナス成長に。これは物価高によって個人消費が伸び悩んでいるためだろう。岸田首相のズレた減税策よりも、年内に恩恵が届く給付金などのほうが必要とされていることが浮き彫りになった。それに加えて、9月に発足した新内閣の政務官や副大臣の不祥事も相次いでいる。山田太郎文科政務官は20代女性との不倫関係が報じられ、辞任。柿沢未途法務副大臣は4月の江東区長選で違法な有料ネット広告を勧めたほか、選挙前に複数の区議に現金を配っていたことも発覚。神田憲次財務副大臣も税金滞納を繰り返していたことが問題となり、次々と“更迭”された。
不倫で辞任した山田太郎文科政務官(本人Facebookより)
きわめつけは15日、三宅伸吾防衛政務官が事務所の女性スタッフに、体を触ったりキスをしたりする性加害を行った疑惑を週刊文春が報道。本人は「まったく身に覚えがない」と否定しているが、岸田政権の新たな火種となっている。これら以外にも、永田町内では次に狙われる自民党議員の名前が出回っており、不祥事の連鎖は尽きそうにない状況で、あらためて岸田人事の「不適材不適所」ぶりが露わになっているといえるだろう。
存在感を増しつつある菅義偉前首相
そんななか、自民党内では「岸田おろし」につながるような動きも出始めている。15日には経済安全保障大臣の高市早苗衆院議員が、国力増強をテーマにした勉強会「『日本のチカラ』研究会」を発足し、初会合を開いた。現職の閣僚が自身主宰の勉強会を立ち上げるのは異例で、来年9月に想定されている自民党総裁選で岸田首相に対抗する狙いがあると見られている。しかし、この初会合に集まった国会議員はたった13人。総理総裁を目指す政治家としての求心力の弱さが浮き彫りになってしまった。もともと高市氏は党内の名門派閥である清和会に所属していたが、当時は町村派だった2011年、翌年の総裁選で派閥会長の町村信孝氏ではなく、安倍晋三氏を応援するために派閥を離脱。その後は無派閥で活動を続けているが、過去の経緯から清和会(現在の安倍派)とは溝がある。これまで、その間を取り持っていたのが安倍晋三元首相であったわけだが、安倍氏が銃撃事件で亡くなって以降は後ろ盾を失い、今回の初会合ではそれが如実に表れたといえるだろう。
高市早苗経済安全保障大臣(本人Facebookより)
一方でメディアへの露出が増えて存在感を増しつつあるのが菅義偉前首相だ。12日に出演した「日曜報道 THE PRIME」(フジテレビ系)では、インバウンド政策として江戸城再建計画が取り上げられ、「推進するためにはひとつの大きな方向性と世論をつくらないといけない」と語ったことが話題に。また、15日に出演したインターネット番組「ABEMA Prime」では、岸田首相の経済対策について「国民になかなか届いていないのは、きちんと説明をする必要がある」と苦言を呈した。番組で菅氏は自身の首相再登板については「ない」ときっぱり否定し、小泉進次郎元環境大臣について「(総理総裁の)道を歩んでいくようになると思う」と持ち上げたが、永田町では「来年の総裁選政局に絡んでいこうとしている意欲の表れだ」と囁かれている。
近づく総裁選で問われる自民党議員の姿勢
こうした「岸田おろし」の前触れとも取れる動きは今後大きくなっていくのか。それを占うのが安倍派の動向だ。現在の岸田政権は、首相自ら率いる岸田派、茂木敏充幹事長が率いる茂木派、麻生太郎副総裁が率いる麻生派の三派連合によって成り立っている。これらを突き崩し得るのは99人を抱える党内最大派閥である安倍派だが、その肝心の安倍派は安倍氏に代わる次のリーダーを決められず、未だに「安倍派」として集団指導体制を敷いており、派閥としての意思決定力は鈍い。現在の中途半端な状態を脱却するためには、派閥としての方向性をしっかりと決める必要があるが、自民党関係者は「99人の大所帯を持つ安倍派が無理に方向性を決めようとしてしまえば、意見が割れて派閥が分裂してしまう可能性がある。そのため総裁選への対応は慎重にならざるをえない」と解説する。しばらく安倍派は「岸田おろし」の動きについても静観の状態が続きそうだ。
自民党本部
しかし、来年9月に想定される自民党総裁選は着実に近づいてきている。総裁選に向けて「岸田おろし」の動きがこれから大きくなっていけば、衆議院の解散戦略にも影響を与えることになるだろう。もし、岸田首相が総裁選前に解散を決断するとすれば、タイミングは来年1月の通常国会冒頭か、来年6月の国会終盤に絞られてきているが、いずれにせよ、選択の猶予はそれほど残されていない。そして、判断を急かすかのように、報道各社の世論調査では支持率が下がり続けている。このまま漫然と岸田政権を続けて、悠長に政局を見極めている場合なのか。自民党議員ひとりひとりの姿勢が世論から問われている。取材・文/宮原健太集英社オンライン編集部ニュース班