新型コロナウイルス禍以降、全国で24時間無人の店舗が広がっている。店側にとっては人件費がかからない半面、客が支払いを済ませず商品を持ち去る窃盗事件も多い。最近は店側が防犯カメラに写った「犯人」の画像を交流サイト(SNS)で公開するケースが相次ぎ、専門家からはプライバシー面を懸念する声も。ただ、店側に対する批判の声はほとんどなく、SNSを使った〝逆襲〟が定着しつつある。
試着室で商品詰め込み
昨年10月にオープンした大阪府東大阪市の古着の無人販売店「RE-MUJIN(リムジン)」。多彩な古着をとりそろえ、購入する場合はハンガーに書かれた値段を券売機で支払う仕組みだ。店内には6つの防犯カメラが設置され、オーナーの男性(52)は「これまで窃盗被害はほぼなかった」と語る。
ところが今年10月24日、試着室に商品のないハンガーが複数かけられていた。不審に思ったオーナーが防犯カメラを確認すると、犯行の一部始終が写っていた。
前日の午後、黒っぽいキャップにマスク姿の若い男性らしき人物が入店。しばらく商品を見て退店した直後、大きなバッグを持って再び店にやって来た。商品を数点手に取ると、店の奥にある試着室に入っていった。
数分後、出てきた人物の手に商品はなく、膨らんだバッグを抱えて足早に退店した。少なくとも古着8点が盗まれていたという。
「良心」への訴え届かず…
被害を受け、店側はインスタグラムで防犯カメラの画像を公開。こんなメッセージを投稿して〝自首〟を呼び掛けた。
《お支払い忘れていませんか?1週間お待ちしています》
《このままですと大阪府警の方に被害届を提出させて頂きます》
結局、3週間以上待っても連絡はなく、店側は府警に被害届を提出した。オーナーは「警察沙汰にしたくないという気持ちもあり、犯人の良心に訴えたが、残念」と肩を落とす。一方、画像の公開でプライバシーへの配慮といった批判も覚悟したが、「そうした声は全くなかった」とも振り返った。
「9割は摘発」
無人販売店を狙った事件は全国で相次いでいる。特に冷凍ギョーザや精肉などを扱った店がコロナ禍以降急増し、商品を持ち去られる被害が目立つ。昨年8月、大阪市の店舗で冷凍ギョーザなどを盗んだとして50代の男が窃盗容疑で逮捕。今年7月には、愛知県春日井市の店舗で牛肉などを盗んだとして20~50代の男3人が逮捕された。
SNS上では「犯人」が写った防犯カメラ画像を拡散する店も多い。全国に展開する食肉販売の無人店「おウチdeお肉」では、各店の窃盗被害を「犯人」の鮮明画像を含めてSNSで積極的に公開してきた。運営会社代表の林眞右(しんすけ)さん(35)は画像の公開について「9割は摘発されるし、今後の抑止力にもなる。犯人側から公開が問題だと言われたら裁判も受けて立つが苦情は1件もない」と言い切る。
「一般社団法人全国防犯住宅推進機構」のトータルセキュリティアドバイザー、山口由衣さんは「窃盗犯は『人の目』を一番嫌う。被害を防ぐ対策の一つとして、防犯カメラ映像の公開は有効だ。ただ、映像を積極的に公開すれば、純粋に買い物をしたい客は、プライバシーをさらされるのではと不安を抱く可能性がある。来店を敬遠するリスクもあり、公開は慎重に判断しなければならない」と指摘している。
「常時カメラ確認」の店も
無人販売店の中には、防犯カメラ画像の公開はプライバシー面の懸念もあり、公開に頼らない対策を講じるところもある。専門家は「犯罪がしづらい環境をつくることが重要」と指摘する。
全国で冷凍ギョーザの無人販売店を展開する「餃子の雪松」では、スタッフが各店の防犯カメラ映像を遠隔で常時確認。トラブルがあれば駆けつける仕組みをとっている。店内の様子が外から見えるよう、ガラス張りの店舗も多いという。
運営会社「YES」(東京)の担当者は「性善説で営業しているが、『ちゃんと見ている』ということを意識してもらえるようにしている」と話している。(宇山友明)