京アニ公判 「父親が殺されたとは言えず」「反省困難、極刑望む」遺族ら意見陳述で訴え

36人が死亡し32人が重軽傷を負った令和元年7月の京都アニメーション放火殺人事件で、殺人罪などに問われた青葉真司被告(45)の裁判員裁判の第18回公判が29日、京都地裁(増田啓祐裁判長)で開かれた。情状に関する審理がこの日も続き、家族を失った遺族らが意見陳述するなどした。
1歳だった娘が
「夫の命を放火という一番卑怯(ひきょう)な手段で奪い、自分だけ生き延びた」
アニメーターの宇田淳一さん=当時(34)=の妻は、夫への思いと被告への憎しみを涙ながらに訴えた。事件当時、宇田さんには1歳の娘がいた。まだ話すことができなかった娘は来春、小学生になる。娘には父親が火事で亡くなったとは伝えているが、「殺されたとは言っていない」。今ではよく話す娘を見て「夫は娘とこういう時間を過ごしたかったんだと思う」と悔しさをにじませた。
妻は、被告の法廷での態度にも違和感があったという。自分の小説については冗舌になる一方、都合の悪い質問には回答を渋る。「言い方は悪いが小心者に見える」として「せめて一人一人の犠牲者に大切な人がいることを知って判決を受けてほしい」と求めた。
消え去ってほしい
量刑に関する意見も相次いだ。時盛友樺(ともか)さん=同(22)=の父親は調書で「被告は一刻も早くこの世界から消え去ってほしい」と訴え、栗木亜美さん=同(30)=の母親は「被告に反省を求めることは困難。極刑を望みます」と強調した。
事件で全身の9割に重度のやけどを負い、生死の境をさまよった被告。懸命の治療の末、車いすで出廷できるまで回復した。渡辺紗也加さん=同(27)=の父親は「娘は治療を受けることさえできなかったのに複雑な思い」と明かし、最大の争点である刑事責任能力にも言及した。「怪しまれないようにガソリンを買ったり、犯行前に躊躇(ちゅうちょ)したり。責任能力は十分にあったと思う」
被告は、こうした遺族の陳述や法廷で読み上げられた調書での訴えを、目をつぶりながら静かに聞いていた。
被告に完全責任能力があると主張する検察側は27日の冒頭陳述で「類例なき凄惨(せいさん)な大量放火殺人事件だ」と被害の重大性を強調。一方で弁護側は検察側が死刑を求刑する可能性があるとして、裁判員らに慎重な検討を求めている。

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