米軍オスプレイ墜落「街に落ちていたら」 屋久島住民に不安

世界遺産の島の空に突如、ごう音が響き渡った。屋久島(鹿児島県屋久島町)沖で29日、米軍の輸送機オスプレイが墜落した事故。突然の惨事は、多くの住民の目の前で起きた。一体、何が起きたのか――。自然豊かな島は、緊迫した空気に一変した。
農業の平田耕作さん(68)は現場のそばにある岬の岩場で釣りを1人でしていたところ、島を一度離れたオスプレイが再び戻ってきて、屋久島空港に向けて下降してきたのを見た。「問題なく飛んでいる」と思っていたところ突然、機体が180度ひっくり返り、次の瞬間左エンジンから火が出て「ドーン」と爆発し、プロペラがはじき飛ばされた。その直後、間を置かずに機体は海に真っ逆さまに落ち、海面から黒煙が立ち上っていたという。
平田さんは「夢か現実か分からず4、5分間、ぼうぜんとした。こっちに突っ込んでいたかもと思うと、体が震えた」と語った。
現場付近で漁をしていた漁船の船長、中島正道さん(68)は「落ちる落ちる」という船の乗組員の叫び声で異変に気付いた。乗組員らの話によると、機体は3回ほど回転し、オレンジ色の光が見えた後、海に落ちたという。時間にして10秒ほどで、中島さんは「海面から70~80メートルの高さで機体から黒煙が上がり、火の玉が見え、墜落して水しぶきが上がった」と振り返った。
現場近くに住む酒井幸子さん(76)は片付けをしながらテレビを見ていた。「ヘリの音がいつもと違う」とベランダに出ると、目の前で機体が海に向かっていったという。「機体は火を噴きながら旋回して海へ落ち、ごう音とともに激しい水しぶきか煙のようなものを上げた。『ドカーン』というものすごい音で、とにかくびっくりした」
同じころ、空港そばのガソリンスタンドに勤務する男性(56)も海へ落ちていく機体を見ていた。「高度を下げたところで見えなくなり、海上から煙が上がった」。空港上空を旋回するのを珍しく感じて目で追っていたところ高度を下げていったといい、墜落後はパトカーが次々に空港に向かい、物々しい雰囲気になったという。
墜落現場近くでレストランを経営する永綱(ながつな)未歩さん(44)は事故の直前、「ボボボボボ」と車のマフラーに何かが詰まったような音を聞いた。航空機の音は聞き慣れていたが「飛行機の『ゴー』やヘリの『バラバラ』という音とは明らかに違う、初めて聞く音だった」と話す。
現場近くに住む女性(79)は「うたた寝をしていたところ『グワーン』というものすごい音で起こされて外に飛び出した」。別の女性(65)も「今まで聞いたことのない大きな音だった」といい「乗組員が早く見つかってほしい」と安否を気遣った。
元陸将でヘリパイロットの経験がある山口昇・国際大教授は、墜落原因について現時点で断定できないとしたうえで「機材のトラブルが要因と考えられる」と話す。山口氏は「エンジンの周りから火が出ていたという目撃情報などからも、動力系統に不具合が起きて屋久島空港に降りようとして、不時着水したのではないか」とみる。
屋久島は周囲約130キロ、人口は1万1000人あまりで、屋久杉などで知られる国立公園があり、1993年には世界自然遺産にも登録された。現場となった東海岸一帯には町役場や空港、宿泊施設などがあり、島有数の集落が連なっている。
屋久島漁協によると、周辺ではシマアジの一本釣りの漁船5隻が操業していたが、無事だったという。屋久島町役場によると、住民が被害に遭ったという情報は入っていない。
小学生ら3人の子どもを育てるパートの女性(41)は「事故が起きたのは子どもたちが学校にいるか、下校する時間だった。街中に落ちていたらと思うと……」と不安をにじませた。
政府は中国を念頭に南西諸島の防衛力を強化する「南西シフト」を進めており、九州・沖縄は南西防衛の最前線となりつつある。同町に住む女性(71)は同県西之表市の無人島・馬毛島(まげしま)で自衛隊の基地建設が進んでいることに触れ「今までこういう事故はなかったが、これからが不安だ」と明かした。【栗栖由喜、谷由美子、城島勇人、清水晃平、井上和也、江刺正嘉、安藤いく子】

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