生活保護費の引き下げは生存権を保障した憲法25条に反するなどとして、愛知県内の受給者13人が国や居住自治体に減額決定の取り消しなどを求めた訴訟で、名古屋高裁(長谷川恭弘裁判長)は30日、受給者側の請求を棄却した1審・名古屋地裁判決を取り消し、国に1人1万円の慰謝料を支払うよう命じた。また、厚生労働相による基準額の引き下げが生活保護法に違反するとし、自治体の減額決定を取り消した。
全国29地裁に起こされた同種訴訟で、国の賠償責任を認めたのは初めて。2審判決は、原告側の逆転敗訴となった今年4月の大阪高裁に続き2件目。司法判断は割れており、1審判決が出ている22件のうち12件が減額処分を取り消した。
国は2013~15年、生活保護費のうち食費や光熱費などに充てる「生活扶助」の基準額の算定に、物価下落率を基にした「デフレ調整」や、生活保護世帯と一般の低所得者世帯の生活費を比べて見直す「ゆがみ調整」を反映。3年間で基準額を平均6・5%引き下げ、計約670億円を削減した。訴訟では二つの調整の合理性が争われた。
判決は、厚労相の判断過程と手続きには過誤や欠落が認められると指摘。リーマン・ショックで国民の生活水準が悪化した08年以降、基準額が据え置かれたことで生活保護受給世帯の可処分所得は一般世帯と比べ増えているとした国の主張を「食料や光熱費は上がっており、少なくとも生活保護世帯一般には当てはまらない」と退けた。
またデフレ調整に国が用いた独自の指数には学術的な裏付けがなく、物価下落が始まった08年を起点に算定されている点も急激な物価上昇が考慮されていないとして、「客観的な数値との合理的な関連性や、専門的知見との整合性を欠いている」と断じた。こうした厚労相の判断過程は裁量権を逸脱し、生活保護法に違反すると結論付けた。
基準額引き下げが受給者に与えた影響は重大で「さらに余裕のない生活を強いられた」とし、処分を取り消しても精神的苦痛はなお残ると国に賠償を命じた。一方で判決は、違憲性の判断は示さなかった。
判決を受けて記者会見した原告側代理人の森弘典弁護士は「国家賠償も認めるなど最高最良の判決ではないか。利用者の視点に寄り添っている」と評価。厚労省は「判決内容を精査し、関係省庁や自治体と協議した上、適切に対応したい」とした。【田中理知】