京都アニメーション放火殺人事件で殺人罪などに問われた青葉真司被告(45)の裁判員裁判は、第21回公判が6日午前10時半から京都地裁で開かれ、負傷した京アニ社員による意見陳述や被告人質問が予定されている。負傷者による意見陳述などは4日の前回公判から始まった。仲間を失い、自らも後遺症に苦しみながら4年の月日を過ごした彼ら。残された者として生きていく葛藤と苦悩は計り知れない。
「幸せになっていいのか」
法廷で意見陳述した30代の男性社員は、事件があった日、第1スタジオ1階で被告と対峙(たいじ)したと明かした。突然現れた赤いTシャツにジーンズ姿の侵入者。危険を察し、さすまたを手にした瞬間、目の前が炎に包まれた。「死んだと思った」。何とか火がまわっていない出口を見つけた。やけどを負う中、近くの駅へ走り、通報した。
必死の思いで現場から離れ、仲間らの救助を求めた男性。しかし犯行を防げなかったこと、そして先輩や仲間を置いていかざるを得なかったことを悔やみ、「ご遺族に合わせる顔がない。(自分は)幸せになっていいのか」。葛藤は今も消えることはない。
「あんたも幸せになってよかったはずだ」
不幸な生い立ちや戦争、愛する人の死。「世の中には個人の力でどうにもならないことがある」と語ったこの男性社員だが、そんな不条理に対しても、「希望を語れるのは小説、アニメなどのフィクションだ」。創作は世に希望を与える存在だと述べた上で、一時期アニメや小説に傾倒していた被告に問いかけた。
「被告も同じだったはず。あんたも幸せになってよかったはずだ」。男性の口調が徐々に熱を帯びていく。そして次に、被告のフルネームが法廷に響いた。
「青葉真司!」「聞いてるか!」。男性の叫び声に法廷の雰囲気は一変。「生きていたかったのに生きられなかった人がいる中で、あんたはまだ生きてるんだよ」。男性はこう続け、これまで胸の中にためていた思いを一気に爆発させた。その言葉は36人の命を奪い、自らも大やけどを負いつつも、法廷にいる被告にその意義を問うたかのように聞こえた。
「希望を語ることをやめない」
緊張が走った法廷。しかし、被告は表情を崩すことなく、ただうつむいているだけだった。
4年間の苦しみ、怒り、葛藤。男性が手元に用意したメモ用紙を持つ手は震えていた。「悲しみ、苦しみを抱えたまま前を向いていきます」。男性はそう切り出し、残された京アニの社員として決意を口にした。
「フィクションを作るものとして私たちは希望を語ることをやめない」。夢半ばで未来を奪われた仲間らの思いを受け継ぎ、前へ進んでいくことを誓った。