責任能力あり?なし? 精神科医の見方は 京アニ公判7日結審

2019年の京都アニメーション放火殺人事件で、殺人などの罪に問われている青葉真司被告(45)の裁判員裁判は7日、結審する見込みだ。最大の争点は、青葉被告の刑事責任能力の有無や程度。被告が抱いていた妄想への評価を巡っては、精神鑑定をした医師2人の見解が分かれた。「鑑定のずれ」をどう考えればいいのか。約100件の鑑定経験がある聖マリアンナ医大の安藤久美子准教授(犯罪精神医学)に話を聞いた。
被告や弁護側はこれまでの公判で、京アニが募集した「京都アニメーション大賞」に小説を応募したが落選した▽小説のアイデアを京アニに盗まれた▽落選や盗用は「闇の人物」の指示で、その反撃として事件を起こした――と動機を説明している。これに対し、証人出廷した京アニの社長は被告の応募作が落選したのは事実としつつ、1次審査で落ちており盗用の事実はないと否定している。
こうした被告の妄想が事件に与えた影響について、検察側の依頼で精神鑑定をした医師は「ほとんど認められない」と証言。放火を実行したのは他人に責任転嫁しやすい被告のパーソナリティーが主な原因だとした。これを踏まえて検察側は被告に完全な刑事責任能力があったと主張している。一方、弁護側の請求で鑑定した医師は、被告に重度の精神障害があったとし、「妄想が犯行の動機を形成し、現実の言動にも影響した」と述べた。弁護側も責任能力はなかったと訴えている。
医師の見解が割れたことについて安藤准教授は「妄想が現実の出来事に基づく範ちゅうにとどまるのか、それとも了解不能でとっぴな内容をも含むのか。その評価の違いだろう。判断が難しいケースだったのではないか」と指摘する。
たとえば、近隣住民が自分の家の悪いうわさを流しているという妄想を抱くケースがあるとする。過去に家族が近隣住民と口論していたなど実際に関係が良くなかったという事実があれば、現実に基づく妄想と言える。一方、近隣住民が首相にまでそれを密告し、首相が自分に監視をつけるようになった――という通常考えにくいような内容にまで妄想が発展していれば了解不能と考えられるという。そして、そんな非現実的な妄想が事件の動機と強く結び付いていれば、「精神障害の影響で本人の意思と関係なく事件を起こした」として責任能力は否定され、無罪の結論が出る可能性もあると説明した。
青葉被告の場合、京アニに小説を応募して落選したのは事実だ。そこから京アニを恨んで事件を起こすに至るが、安藤准教授は「それが単に被告のうたぐり深い性格によるものと判断されれば、責任能力は認められるだろう」との見方を示す。ただし、闇の人物に関する説明は、非現実的な妄想に発展したとも評価できるとし、「それを誰も訂正できないほど本人がかたくなに信じ込んでいれば、事件は妄想による影響が大きいと評価される可能性もある」と述べた。
青葉被告の責任能力の有無や程度については、裁判官や裁判員が11月下旬までの非公開評議で議論し、既に結論が出ている。この結果は来年1月25日の判決まで公表されない。【安元久美子】

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