【NHK内部資料入手】稲葉会長が声を荒らげた“極秘役員会”の議事録を公開「刺されます」「よくよく考えて!」

この12月からNHKでは衛星放送(BS番組)が再編され、リニューアルを謳っている。だが、一方でこの半年間、「BS番組のインターネット配信問題」が騒ぎになり、世間でも話題になった。BS番組のネット配信は、総務省が所管する「放送法」や「実施基準」に適合しない違法性のある事業にもかかわらず、NHKでは、理事たちの稟議だけで9億円もの予算支出を決定し、国会でも承認されていたからだ。受信料が元手であるため、世間からは批判の嵐が吹き荒れた。この事業を推進した前会長の前田晃伸氏には退職金10%カットという異例の処分が下り、理事たちも報酬を一部返納する罰則を受けた。
本誌取材班はこの問題をめぐって今年4月19日に秘密裏に開かれた「臨時役員会」の議事録を入手。全9ページの文書には紛糾する議論の模様が生々しく記録されていた。
文書から伝わってくる、NHK理事たちの感情の揺れ動き
冒頭、新任の井上樹彦副会長が〈本議案をそのまま放置すれば、違法性の疑いはまぬがれない〉と発言し、他の理事たちの間に動揺が走る場面から会議は始まる。
井上氏による追及、稟議を承認した理事たちの狼狽、そして責任の擦り付け合いなど、文書からは生々しい感情の揺れ動きも伝わってくる。ハイライトの一つは、井上氏と前体制の中枢を担い経営企画担当の理事を務めた伊藤浩氏との間で繰り広げられた議論だろう。
(井上)よくわからないのだが、経営企画局は当然実施基準をこれから変えるにしても変えるお願いをするにしても状況は把握しているわけですよね。NHKの中で一番。
(伊藤)はい
(井上)それが起案者になって、まだその実施基準がクリアされていないのにフルスペックまで設備を整備するということを発議して、稟議して承認してもらったと。ここのつながりというか経緯がわからない。
(伊藤)ですから、さきほどもお話させていただきましたが、今日の皆さんからのご指摘はごもっともかと思います。で、当時の会長の指示として今後の変化に耐えられる準備を行うべしということでございましたので、こういう形でさせていただいたと。
「心の準備はやっていいんだけども費用がかかる話だから」
さらに井上氏が詰め寄る。
(井上)会長に担当理事がそれを言わないといけないですよ。これはできないと
(伊藤)現状の実施基準ではできないと
(井上)言っても(前田が)止まらなかったということ?
(伊藤)2024年度以降のところで、実行できる環境が整ったところでサービスを実行していくということのための準備作業を整えていくと
(井上)心の準備はやっていいんだけども費用がかかる話だから。これはこのあと会計検査とかで見れば矛盾するわけですよ。だって決まっていないことを了として予算ついているってことですから。10億近くね。
「よくよく考えて! ご自身のためによくよく考えて!」
会議の中盤になると、今年1月に新しくNHK会長に就任した稲葉延雄氏が声を荒げる場面も出てくる。外部からの登用で、日本銀行の理事を歴任したことも就任当時、話題になった人物だ。
(会長)困ったときに稟議だけ上げちゃえという発想はもうやめたほうがいい。困ったときほどそういう議論をちゃんとやることが大切。それから役員の方々に対してですが、メクラバンはやめてほしいと、本当に。民間企業であれば、うっかりするとすぐ背任で刺されますんで、割とみんな真剣なんですよ。利益第一主義だとかいわれますが、ちょっと、、、(ママ)皆さんそのハンコを押すのは安易に流れていると、いう感じがしますね。よくよく考えて! ご自身のためによくよく考えて!
この臨時役員会についてNHK広報局に問うと、「役員による情報共有や意見交換などは必要に応じて、随時、行っています」と開催を認めた。また、一連の不祥事については「受信料で事業運営を行うNHKの業務執行やガバナンスに対する視聴者・国民の皆さまの信頼を損なう事態となり、改めてお詫び申し上げます」との見解を示した。
今回、本誌取材班が入手した議事録には〈損害賠償請求の対象になる〉〈イリーガルな対応は絶対やってはならない〉などと事案の処理をめぐって頭を悩ます理事たちの模様も記録されている。「 文藝春秋 電子版 」では、 前篇 と 後篇 に分け、約1万3千文字にわたり大荒れの臨時役員会の全貌を公開している。
(「文藝春秋」編集部/文藝春秋 2023年12月号)

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