福島県相馬市の松川浦県立自然公園にある私有地の湿地約2ヘクタールを埋め立てる計画が地元で波紋を呼んでいる。県外に本社のある事業者が首都圏から大量の土砂を搬入する計画だが、住民から埋め立て後の利用方法や景観、環境の変化などを不安視する声が上がる。市は工事に必要な市有地の使用許可を出さない方針を決めた。
松川浦は南北6キロの砂州で、太平洋から隔てられた潟湖(せきこ)。東日本大震災と東京電力福島第1原発事故から復活した青ノリの養殖も盛んだ。現場は、松川浦の北西端にある松川浦環境公園を取り囲む「野崎湿地」と呼ばれる場所。県の調べではキタミズカメムシなど県内で絶滅が危惧される動植物が確認されている。同公園は環境省が復興支援で設定した「みちのく潮風トレイル」にも指定されている。
業者は地元関係者への説明会を11月17日に開き、12月にも搬入を始める計画を示した。圏央道(首都圏中央連絡自動車道)の一部「横浜湘南道路」の建設工事で出た土などを搬入し、土地の一部を運搬車両の駐車場などに利用したいと説明した。全2ヘクタールの広さがある野崎湿地のほとんどを埋め立てる予定で、県に11月8日に埋め立て計画を届け、市にも10月下旬、工事の進入路などに市有地を使う許可申請をした。
だが、説明会では過去に湿地の管理を任されていた環境団体などから反対の声があり、12月4日には環境公園を管理するNPO法人が市に市有地の申請許可を控えるよう意見書を提出するなど、地元に懸念が広がった。
こうした中、7日の市議会一般質問で立谷秀清市長は「市は埋め立て行為への許認可権限は持っていない」としたうえで「地元の理解が得られていなければ、市として公益性があるとは認められず、協力はできない」と説明し、届け出のあった許可申請の一部を認めないと明らかにした。県も、条例に基づき埋め立て工事の禁止などを命じる方針はないものの、「住民理解の促進や環境影響を考慮するよう業者に今後求める」としている。
業者の担当者は毎日新聞の電話取材に「湿地の所有者から土地を購入する際、埋め立てて安全にしてほしいと言われた。搬入する土も安全だ。こちらも経済活動だが、地元の意向を逆なでして進めるつもりはない。市ときちんと話し合い、理解を得ながら進めたい」と話した。
松川浦で水質調査や昆虫観察などの活動をしている環境団体「はぜっ子倶楽部」によると、同団体は震災前、野崎湿地を所有する東京都在住の女性から湿地の管理を任され、県内で唯一確認されたヒヌマイトトンボの調査などを専門家と行っていた。ただ、女性が震災後に亡くなったこともあり、近年は野崎湿地で活動していなかったという。
新妻香織代表は「松川浦は国の重要湿地であり、とりわけ野崎湿地は希少な生物の生息域。突然埋め立てると言われたが到底受け入れられない」と話し、今後は業者と協議して土地の買い取りを交渉するという。【尾崎修二】