九州郵船の旅客船ヴィーナス2が12日、航行中にエンジンが止まり約2時間“漂流”した事故で、乗客が「ガラスが割れて、波が入って来た」「揺れがひどかった」などと当時の船内の様子を証言した。乗客は全員、無事に最寄り港で一旦下船。別の船に乗り換えて、約4時間遅れで本来の目的地だった福岡・博多港に到着した。
◆「バンとガラスが割れて波が船内に」緊迫した“漂流中”の船内
▽男性乗客の証言(要旨)
・船内で水を全身に2回被った女性がいた
・水をかぶってバタンと倒れ、その後もう一回被った(船が完全に停止する前に起きた、エンジントラブルが原因かどうかはわからない)
・エンジンが片方止まり、修理不能と後から聞いた
・船が止まった後、側方から波を受けることになったので揺れは酷かった
・みんな心配していた
・福岡の病院に行く予定だったが、行けなくなった
▽年配の男性乗客の証言(要旨)
・ガラスが割れてびっくりした。船の正面の1階に座っていたが、ガラスがバンと割れて、波がザバッと入って来た
唐津海上保安部が撮影した映像や写真は、波にあおられて傾いた船体が写っている。当時、現場海域の波の高さ2.5メートルで高かった。
◆乗客47人を乗せたまま一時「漂流」
船が漂流したのは、長崎県壱岐市芦辺町から北に約1300メートルの沖合。海上保安庁羽田航空基地の特殊救難隊や、福岡保安部などの巡視船などの航空機4機、巡視船など4隻が、ヴィーナス2の漂流している海域に急行した。海上保安庁によると、子供1人を含む乗客47人は救命胴衣をつけて、船上で救助を待った。午前8時46分ごろには、錨を下ろすことに成功。これ以上流されるおそれは低くなった。そして、午前10時9分ごろにエンジンが復旧して、自力で航行できるようになり、最寄りの芦辺港に向かった。乗客は午前10時22分ごろ、全員が無事に下船した。
午前8時17分:エンジン停止「漂流」の通報
午前8時46分:錨を下ろすことに成功
午前10時9分:エンジンが復旧
午前10時22分:最寄りの芦辺港に入港、全員が無事に下船
◆出航前の点検では「異常なし」
ヴィーナス2を運航する九州郵船によると、この便の出発前の点検は、通常通り、出航2時間前の午前5時に実施されたという。その際は、異常はなかった。午前5時にエンジンを始動し、一度もエンジンを止めることなく出発を迎えた。その後、沖合でエンジンが止まった原因はわかっておらず、同社が調査している。
◆“漂流”した乗客は別船に乗り換えて博多へ
九州郵船のヴィーナス2は全長30.78メートル(水中翼を上げた状態)、総トン数は163トン。時速75キロで航行する能力がある。博多~壱岐(郷ノ浦、芦辺)~対馬(厳原、比田勝)の航路がある定期船。漂流したヴィーナス2は、12日午前7時に長崎・厳原を出発して、福岡・博多に向かっていた。エンジンが復旧した後、最寄りの芦辺港に着いた乗客は別の船に乗り換えて午後1時半過ぎに博多港に到着した。事故がなければ、午前9時15分には到着するはずだったため、4時間あまり遅れたことになる。海上保安部によると、乗客乗員にけがはなく、油の流出もないという。