神戸市灘区の阪急電鉄踏切で10月、手押し車を利用していた女性(94)が電車にはねられ死亡する事故があり、手押し車のタイヤがレールに挟まって女性が転倒し、踏切内に取り残されたとみられることが11日、捜査関係者への取材で分かった。遮断機が下りた後に女性の転倒に気づいた目撃者の男性が非常停止ボタンを押そうとしたが、男性の側にはなく、約15メートル離れた反対側のボタンを押すまで数秒かかっていたことも判明した。
現場は、踏切内の線路に対し道路が斜めに交差する構造。兵庫県警は女性が方向を見失って斜めに延びていく道路から外れ、軌道との境界付近で転倒したとみている。こうした構造の踏切は事故の危険性が高いとされ、阪急電鉄は新たな事故防止装置の設置を決定。道路を管理する神戸市も通行環境の改善を検討している。
事故は10月24日午前7時15分ごろ、神戸市灘区篠原中町の阪急神戸線「篠原第二踏切」で発生。近くに住む女性が通勤急行にはねられて死亡し、現場には手押し車のものとみられる部品が落ちていた。
県警灘署は周辺の防犯カメラなどを解析し、事故の経緯を特定した。捜査関係者らによると、女性が踏切に到着した際、すでに遮断機が下りていたため、道路の左端付近で待機。電車の通過を待って線路に対して直進した。右手で小型の手押し車を押しながら左手にも荷物を持ち、かなり前かがみの状態だった。
道路は女性の進行方向に対して右斜めに延びて線路と交差しているが、女性は直進を続けて道から外れ、軌道との境界付近で転倒した。
その後、遮断機が作動。女性はいったん起き上がりかけたが再び転び、電車にはねられた。
同署は女性がかなり前かがみの姿勢で視野が狭くなっていたため、進路が道路からそれていることに気付かなかったとみている。
踏切には障害物検知装置があったが、主に車が対象となるため、倒れた女性には反応しなかった。阪急は今回の事故を受け、現場に取り残された人を検知できるシステムの設置を決めた。
神戸市は道路に色を付けるなど、注意喚起のための対策を検討している。
非常ボタン間に合わず…反対側のみ
今回の事故では、踏切内で女性が転倒するのを目撃した男性が非常停止ボタンを押していた。しかし目撃場所からボタンの場所まで距離があり、結果的に間に合わなかった。件数自体は減少傾向にある踏切事故だが、危険性は構造によって異なる。専門家は、それぞれの踏切の特徴に合った対策が必要だと指摘する。
捜査関係者らによると、目撃者の男性は踏切の北西角付近で踏切内に女性が倒れているのを発見。すでに遮断機は下りており、非常ボタンを押そうとした。
しかし、現場で非常ボタンがあるのは南西と北東の2カ所。男性は約15メートル離れた北東まで走ってボタンを押したが、ほぼ同時に電車が踏切を通過した。ボタンを押せば自動的に電車のブレーキがかかる仕組みだが、運転士が女性の存在に気づき、ブレーキをかけた方が先だったとみられる。
非常ボタンは踏切を横断する自動車ドライバーらの使用を想定し、進行方向左手前に設置されているのが一般的という。鉄道の安全対策に詳しい関西大の安部誠治名誉教授は、非常ボタンは通常2カ所としつつ「道幅が広いなど状況に応じて4カ所設置すれば、目撃者がすぐ押せるようになる」と指摘する。
踏切「個性」に合わせた対策を
今回の事故を受け、阪急電鉄は現場踏切に新たな事故防止装置を導入する方針だ。同社によると、これまでも踏切内に照射されたレーザーが障害物で一定時間遮られると、接近する電車に自動ブレーキがかかる装置があった。しかし、ある程度の高さや大きさがないものは検知できず、今回は作動しなかった。来年度には、踏切内の障害物を高精度で検知する装置を導入するという。
安部氏はこうした対策を評価した上で「そもそも転倒して人が取り残されないように、歩行環境を整備するなどの対策も重要だ」と指摘。「踏切には個性があり、それぞれが抱えるリスクに合わせて対策を取る必要がある」と強調した。(安田麻姫)