自民党安倍派の政治資金パーティーをめぐる問題は、安倍派の「5人衆」と呼ばれる有力議員全員が閣僚や党幹部の役職を退くことになるなど、衝撃と波紋を広げている。そんななか、「頭悪いね。わからない?」という記者への逆ギレ発言でにわかに“時の人”となったのが谷川弥一・代議士(82)だ。
長崎県議会議長を経て衆院当選7回のベテランだが、入閣経験はなく、代議士生活20年で経験しためぼしいポストといえば農水政務官と文部科学副大臣くらい。国会質問に立ちながら、「時間が余ったから」と言って般若心経を読み上げたことで物議を醸したこともある。
ところが、その“陣笠議員”の谷川氏が派閥のパーティー券を売りさばき、並み居る安倍派の実力者より多い約4000万円ものキックバックを受けたと報じられているのだからすごい集金力だ。
それもそのはずで、谷川氏は地元・長崎で「谷川建設」を創業し、注文住宅から学校や病院建設、道路・トンネル・河川などの土木工事まで手がけるグループ売り上げ約300億円の地場有力企業へと一代で育てた人物。県政の大実力者でもある。
舌禍も多い。2019年には九州新幹線長崎ルートの建設方針で対立する隣の佐賀県の対応を、「韓国か北朝鮮を相手にしているような気分だ」と発言して謝罪に追いこまれた。
だが、地元の長崎で有名なのは、「国営諫早湾干拓事業」にからむ谷川氏の露骨な“利権誘導ぶり”だ。
谷川議員の長男と元長崎県知事の娘が夫婦
この事業は国が総事業費2460億円をかけて長崎県の諫早湾の湾口に長大な堤防と水門を建設し、造成面積約942ha(うち農地約670ha)の広大な干拓地をつくった巨大プロジェクト。多くの水門が次々に閉じられていく光景は「ギロチン」と呼ばれ、大きなニュース(1997年)となった。
谷川氏は同じく県政の大実力者で、長崎県知事も務めた金子原二郎・元農水相とともにこの事業を推進したが、完成すると、設立されたばかりの農業生産法人が入植し、農地全体の約5%にあたる32haもの利用権を取得した。この農業法人は、谷川氏の長男(谷川建設社長)と、当時長崎県知事だった金子氏の長女という夫婦が設立したものだった。
この問題は「税金でつくった広大な干拓地を得たのは知事の娘と国会議員の息子の夫婦だった」と地元で大スキャンダルになり、金子氏が長崎県知事を退任すると、長崎県議会に「百条委員会」が設置されて入植の経緯が追及された。