ふるさと納税の返礼品を巡り、産地偽装が相次いで発覚している。背景には、制度の利用が急増し、「1兆円市場」に成長した中、返礼品の調達が間に合わなかったり、自治体のチェックが追いついていなかったりする実情がある。偽装が明るみに出た自治体には苦情が相次いでおり、識者は「産地偽装は地域ブランドを傷つけ、ファンを失うことにもなりうる。自治体は強い危機感を持つべきだ」と警鐘を鳴らす。
「日本一と称賛されてきた評判が一気に地に落ちた」
今月6~12日、宮崎県都城市議会で行われた定例会一般質問。登壇した17人のうち、7人が11月に発覚した返礼品の産地偽装問題を取り上げ、市の管理体制を厳しく追及した。池田 宜永 市長や幹部職員は「ブランドイメージを大きく損ねた」「再発防止に努める」との説明に追われた。
畜産業が盛んな同市は、返礼品の“お得さ”を強みに寄付受け入れ額を増やし、2022年度には全国トップの約196億円を集めた。14年度に50点弱だった返礼品の種類は現在、約1800点にまで拡大した。
問題となったのは、1万円以上の寄付者に贈られる冷凍鶏肉。「宮崎県産若鶏もも3・3kg!カット済」とPRし、今年4月までの半年間で4億円以上の寄付が寄せられた。しかし、九州農政局の検査で、タイやブラジルからの輸入品だったことが発覚。900件以上の苦情が寄せられた。
市によると、偽装をしていたのは、熊本県錦町の「ヒムカ食品」。市の聞き取りに「鳥インフルエンザの影響で価格が高騰して仕入れられなかった」と弁明したという。
市は返礼品の調達業者に対して毎月、調達状況を聞き取り、対応できる分しか寄付を受けないようにしていたが、産地偽装に気付かなかった。市の担当者は「業者の良心に委ねてきた」と話す。市は再発防止策として来年度から立ち入り検査を実施する方針だ。
ヒムカ食品は18日、読売新聞の取材に「社長が不在で答えられない」とした。
ふるさと納税の寄付受け入れ額は制度開始当初の08年度は81億円だったが、22年度には約9600億円となった。このうち九州・山口・沖縄の各自治体は特産の農畜産物や魚介類、焼酎などをアピールし、全体の約4分の1に当たる2569億円を集めた。今年度の全国の寄付受け入れ額は1兆円に達する可能性がある一方で、返礼品の産地偽装が相次ぐようになった。
佐賀県上峰町では今年、返礼品の牛肉とシャインマスカットの産地偽装が判明した。シャインマスカットの偽装を行った業者は取材に「九州産の旬を過ぎてしまい、品質の落ちたものを送れば、町に迷惑をかけると考えた」と釈明した。武広勇平町長は今月の町議会で「心からおわびする」と陳謝。町は業者に対する抜き打ち検査の導入などを検討している。
長崎県諫早市でも10月以降、返礼品として出したシャインマスカットやイチゴ、メロンなどに地元産以外が含まれていたことが発覚した。いずれも同じ業者で、市は約30種類の返礼品の取り扱いを停止した。市の担当者は「業者に任せきりになっていた」と語った。
山口市では、返礼品の国産マグロがインドネシア産だったことなどが発覚。山口県警が11月30日、食品表示法違反の疑いで業者を捜索した。
ふるさと納税に詳しい北海学園大学の西村宣彦教授(地方財政論)は「返礼品の種類や量が年々増え、行政のチェックに限界が来ている。お得にふるさと納税をできる金額を減らすなどの抑制策も検討するべきだ」と指摘した。
自治体の対策に「返礼品Gメン」
返礼品の質をいかに担保するのか。各自治体も対策を始めている。
和歌山県紀の川市は5月から、市職員が返礼品の品質などを調査する「返礼品Gメン」に取り組む。
寄付受け入れ額が急増する中、「桃がつぶれていた」などの返礼品への苦情も増加していた。このため、市外在住の職員が寄付を申し込み、問題が見つかれば、業者と情報共有している。
宮崎県都農町は5月、産地偽装などの不正が疑われた場合、即座に寄付の受け付けを停止し、業者に発送差し止めを命じられる規定を設けた。
同町は2021年度、返礼品の寄付額に占める割合を3割以下とする総務省のルールを超過。町も違反を疑いながら業者任せにして対応が遅れ、同省は2年間、制度から除外した。
町の担当者は「早期の対応で影響を最小限にすることが大事だ」と語った。