米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古移設計画を巡る代執行訴訟の判決で、福岡高裁那覇支部は20日、埋め立て予定海域にある軟弱地盤を改良するため防衛省が申請した設計変更を承認するよう沖縄県側に命じた。玉城デニー知事が承認しない場合、政府は知事に代わって承認する代執行に踏み切る。知事は再び難しい判断を迫られる。移設計画は大きな節目を迎えた。
玉城知事が承認を迫られるのは今回が初めてではない。
知事が2021年に下した設計変更の不承認処分について、国が是正を指示したことの適法性が争われた訴訟で、最高裁は9月、「是正指示は適法」として県敗訴を言い渡した。公有水面埋立法を所管する斉藤鉄夫国土交通相は判決後、勧告や指示を出して承認を迫った。知事は行政の長としての立場と辺野古移設に反対してきた政治家としての立場の間で悩んだ末、不承認を貫いたが、県議会では「沖縄県は無法者のレッテルを貼られる」(自民党県議)と批判を浴びた。
今回も知事は承認せず、上告して最高裁の判断を仰ぐ可能性が高い。だが、ある県幹部は「9月の最高裁判決で法廷闘争は決着がついている」と厳しい見方を示す。この幹部は現状を債権回収に例える。「債権者が国で、債務者が県とすると、最高裁判決で県は借金返済(=承認)の義務があると決まり、国は代執行訴訟で債権回収を強制執行(=代執行)していいか裁判所にお伺いを立てている。覆すのは不可能だ」。一方で、知事の心情をこう解説する。「上告は政治的な意味しか持たないかもしれない。それでも、長い間、米軍基地を押しつけられてきた不条理を訴えたいという県民感情は無視できない」
ただ、地方自治法の規定では、県が上告するとしても、国交相は最高裁の判決を待たずに設計変更の承認を代執行でき、防衛省は承認に基づく工事を開始できる。知事は既に「詰んだ」状態にある。
設計変更に対する承認権限は、知事が工事を止めることができる「最後の切り札」とされた。辺野古移設に反対する市民団体からは、耐震想定の甘さや環境保全などを理由として、再び、埋め立て承認の取り消しや撤回の処分をするよう県に求める声が上がる。だが、これまでの法廷闘争の結果から、工事を止める有効な手段となる可能性は低い。県庁内部では今後、法的手段で工事を止めることは困難だとの見方が強い。
移設計画の完了には今後、最短でも12年かかるとされる。軟弱地盤の改良工事が難航することも予想され、工事の更なる長期化や事業費の膨張が懸念されている。県の担当者は「移設計画に対する疑問の声が今後さらに大きくなる可能性は十分ある。これからも工事を厳しく見ていく必要はある」と語った。【比嘉洋】