医師の長時間労働が深刻になっている。その働き方を改善しようと2024年度に残業規制が始まるが、専門家は実効性に疑問の声を上げる。
多くの職業が19年から残業時間の上限を定められたが、地域医療への影響などを考慮して医師への適用は5年間猶予されていた。医師も24年4月からは、時間外・休日労働が原則年960時間(月平均80時間)に制限される。
上限規制を形骸化させかねないのが、知識・技術の習得のために学習や研究を行う「自己研さん」の扱いだ。所定労働時間外の自己研さんは一般に労働時間には当たらないとされるが、厚生労働省は19年、「上司の明示・黙示の指示により行われる場合、労働時間に該当する」と通達した。
「玉虫色」の自己研さん
この通達が解釈の幅を生んでいる。うつ病を発症して22年に自殺した医師、高島晨伍(しんご)さん(当時26歳)のケースでも、労災認定した西宮労働基準監督署は死亡直前1カ月間の残業を207時間と認定したのに、勤務先の病院「甲南医療センター」(神戸市東灘区)側は「自己研さんの時間が含まれている」として約30時間だと主張した。病院側は高島さんの死後もなお、自己研さんについて「『黙示』の定義が曖昧なため、『黙示』による時間外勤務命令は認めません」と明記した指針を作っている。自身も医師である高島さんの兄(32)は「黙示の指示は日常的にあります。黙示を認めないのは通達の違反で、労働時間の過少申告の温床になるのでは」と疑問を示す。「そもそも厚労省の通達が玉虫色のため、若手医師が守られない解釈が放置されている」として通達の見直しを求める活動を母と共に続けている。
医師の労働問題に詳しい荒木優子弁護士(第二東京弁護士会)は「上司に『この学会に出たら勉強になる』と勧められて参加した場合は、労働時間にカウントされない可能性がある。残業規制が始まっても、真面目で向上心のある医師ほど状況は変わらないのではないか。病院内にいる時間を制限したり、若手医師をサポートしたりする仕組みが重要だ」と話した。【鈴木拓也、宇多川はるか】