損害保険業界の大手4社が一斉に行政処分を受けた。顧客軽視、法令軽視の姿勢が目に余る。信頼回復の道は険しい。
金融庁は、企業向け保険契約で保険料を事前に調整していたとして、東京海上日動火災保険、損害保険ジャパン、三井住友海上火災保険、あいおいニッセイ同和損害保険に、保険業法に基づく業務改善命令を出した。
保険料を事前に各社間で調整する行為は、独占禁止法に違反するカルテルにあたる恐れがある。そうした不適切な契約は、576の取引先に及んでいたという。
鈴木金融相は記者会見で、「悪質性が高い」と強く批判した。厳しい処分は当然である。
企業向け保険は損害への補償が巨額になるため、1社での引き受けが難しいことが多く、複数の損保による共同保険で契約する。
入札が行われることもある。共同で契約する場合でも、損保側から企業への保険料の提示は個別に行うことが前提だ。
保険料の事前調整は、私鉄大手東急グループの指摘で発覚した。JR東日本など他の企業向けでも相次いで明るみに出て、金融庁が実態調査に乗り出していた。
損保4社は、事前の調整で保険料を高く設定し、企業側に割高な保険料を払わせていた可能性が高い。顧客軽視にほかならない。
損保各社は2010年代後半から、自然災害の激甚化で火災保険の収益が悪化した。そうした事情を背景に17年以降、問題となる契約が急増した。経営陣が営業担当者に利益増を強く求めたことが理由だという。経営責任は重い。
金融庁の調べでは、違法、あるいは不適切と認識していたケースが全体の3割を超えた。部長や課長が知っていた事例も4割以上を占めていた。それでも、事前調整を止められなかったのは、明らかに企業統治の不全だ。
前任者から、口頭や書面で引き継ぎがあった事例も4割に上るというから、あきれる。
損保業界は再編を繰り返し、現在の大手4社に集約された。売上高にあたる正味収入保険料で4社のシェア(市場占有率)は8割を超える。そうした寡占構造が、なれ合いを生んだのだろう。
4社は来年2月末までに、業務改善計画を国に提出する。実効性のある再発防止策が問われる。
公正取引委員会も、カルテルの疑いがあるとして今月、独禁法に基づき、損保大手4社に立ち入り検査に入った。全容を解明し、厳正に対処してもらいたい。