地下街の避難指定、進まぬ首都 補償ルール策定、国に望む声

日本各地の地下街のうち、有事の際の緊急一時避難施設に指定された割合が約4割にとどまることが、産経新聞の調べで明らかになった。地下街はミサイル着弾時の人的被害の抑制に有効だが、国や多くの企業が中枢機能を置く東京都では指定がゼロだった。地下街は主に民間が管理しているが、避難時にトラブルや事故が起きた場合の補償ルールが定かではなく、自治体側はルールを明確化するよう国に求めている。
「地下街は駅や複数のビルと隣接している。ステークホルダー(利害関係者)が多く、調整が必要にもかかわらず、何かあったときの責任や補償について定かでない部分がある」
約1400万人の人口を抱える東京都の担当者は、地下街の避難施設指定が一向に進まない理由をこう明かす。
都はこれまで、コンクリート構造の地上施設のほか、都営地下鉄の駅舎など行政施設を中心に計4258カ所(令和5年12月時点)を避難施設に指定。うち地下施設は568カ所(同)に上る。
国土交通省が定義する全国76カ所の地下街のうち、都内にあるのはJR東京駅前や新宿駅前など計17カ所。都はこうした地下街も指定先に加えたい考えだ。
ただ、民間ビルの地下空間など管理が異なる接続先との調整が難航。また、負傷者の発生や、テナントの商品が壊されるといったトラブルも想定され、自治体や民間側がそうしたリスクを背負うことへの懸念もある。
都の担当者は産経新聞の取材に「損害や補償の面を明確にするよう要望しているが、国の方針が定まらない」と指摘。一部の指定にとどまる横浜市も「補償範囲などが具体的に示されておらず、指定を受けるメリットが不明瞭」と回答した。
これに対し、西日本最大の都市である大阪市は、すでにJR大阪駅前の「ディアモール大阪」など全13カ所の指定を終えた。都などと同様、補償ルールの策定を求めつつも、担当者は「有事の際に避難者を閉め出すことはできない。課題はあるが、人々の安心につながると考え、民間側の理解を得て指定作業を進めた」と説明している。
補償面でのルール策定を求める自治体側の声に対し、内閣官房の担当者は「課題は把握している。どういう形かはともかく、必要な検討は進めたい」としている。
神戸は地下街側と独自協定
平成7年の阪神大震災を経験し、「災害への備え」を市政運営の重要事項に掲げる神戸市は、令和4年2月に地下街5カ所を一斉に緊急一時避難施設に指定した。避難時に事故や損害が発生した場合の補償などを巡り、避難施設に指定した地下街側と独自に協定も締結し、有事への備えでも官民連携が進んでいる。
神戸市は、中心街・三宮の地下に広がる「さんちか」やJR神戸駅前の「デュオこうべ」など市内全5カ所の地下街を避難施設に指定。市民らの避難によって施設などが破損した際の補償については、「(地下街側と)市と協議の上で決定する」などと記した書面を交わした。地下街側の経済的な懸念を払拭する狙いがあるという。
5カ所の地下街には阪神大震災を経験した企業もテナントとして数多く入居。市の担当者は、災害だけでなく有事への備えも「必要性を理解してもらっている」と話す。
また、地下街全4カ所を避難施設に指定済みの福岡市では、地下街側に責任や費用負担が生じないことを前提に、受け入れ可能時間などを定めた取り決めを結んでいる。

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