自民党派閥の政治資金パーティーを巡る裏金問題によって、野党陣営にも大きな変化が生まれている。「敵失」による部分も少なくないとはいえ、野党第1党の立憲民主党への求心力が高まり、2012年の民主党下野から長く続いた政界の「1強多弱」という構図が「政権交代可能な2大政治勢力の戦い」へと、再び移りつつある、ということだ。
秋の臨時国会で野党の中核として、岸田政権に対峙(たいじ)した姿勢が評価されたのか、各種世論調査で支持率が上昇傾向に転じ、そのことが好むと好まざるとにかかわらず、他の中小野党が立憲と歩調を合わせざるを得ない状況が生まれているのだ。
筆者は1カ月前の11月21日に公開した「なぜ自民党候補の落選が相次ぐのか…岸田首相の失政だけではない、立憲民主党の存在感が増しつつある理由」で、野党第1党・立憲民主党に関する「潮目が変わった」ことを指摘したが、その流れはここへ来て、筆者の予想を超えて加速しつつある。
12月16、17日に行われた毎日新聞の世論調査では、立憲民主党の支持率は14%(前回調査比5ポイント増)となり、自民党の17%(同7ポイント減)と3ポイント差まで迫る一方、多くの調査で支持率で後塵を拝していた野党第2党の日本維新の会(13%)をわずかながら上回った。
毎日新聞の調査はやや極端だが、自民党の支持率が急落し、対する立憲の支持率が上昇して維新に並ぶか追い抜くという傾向は、NHK(12月8~10日)など他の調査でもみられる。
長らく「下げ」トレンドにあった立憲の評価が反転しつつあることを全否定できる人は、もはやそれほど多くはないのではないか。
筆者はたびたび、次のように主張してきた。野党の「多弱連合」状態を脱するには、まず第1党の立憲が「多弱」から頭一つ抜け出して野党陣営の中核となり、求心力が高まった後に、他の中小野党が立憲に協力する形で大きな「構え」を作るという、2段階のプロセスを踏むべきだと。
泉健太代表率いる立憲は、ここまでは地味ながらも、着実にその道を歩んでいると言えそうだ。
まず、前回の2021年衆院選でも候補者一本化で協力した共産、社民、れいわ新選組との関係再構築だ。4党は12月7日、野党共闘を支援してきた「市民連合」がまとめた5項目の共通政策の要望書を受け取り、基本的に合意した。
要望書は、
① 憲法も国民生活も無視する軍拡は許さない
② 物価高、燃料高騰、円安、不公平税制を放置せず、市民の生活を守る経済政策を行う
③ だれもが個人として尊重されるよう、ジェンダー平等・人権保障を実現する
④ 将来世代へと繋げるために、気候変動対策を強化し、エネルギー転換を推進する
⑤ 権力の私物化を止め、立憲主義に基づく公正で開かれた政治を行う
――の5点からなる。
市民連合は次期衆院選に向け、共通政策を土台に4党が候補者の一本化を進めるよう要望。各党は「力合わせができる土台が整った」(岡田克也・立憲民主党幹事長)、「自公政権の腐敗した政治をただしていく努力を、連携しながら進めていきたい」(小池晃・共産党書記局長)と、連携に前向きな考えを示した。
すぐに本格的な選挙協力に進むかは見通せないが、少なくとも野党4党がむやみに小選挙区で競合し、自公政権を利するような動きは、相当程度抑制されるはずだ。
この共通政策にはもう一つ、面白いポイントがある。「消費減税」が含まれていないことだ。立憲にとって長らく頭の痛い課題だった「消費減税」という言葉を使わずに、4党が一定程度「まとまる」ことに成功したと言える。
立憲は2017年の結党当時から、自己責任を強いる新自由主義的社会から脱却し、「公」の機能強化と再分配などによって「支え合いの社会」を目指すことをうたっている。税の種類にかかわらず、恒久的な減税を強く打ち出すことは、同党の「目指す社会像」との間に矛盾をきたすことになる。
前回の衆院選で、野党4党が市民連合の仲立ちで政策協定を結んだ時、立憲は消費減税を激烈に求める他党への配慮から、渋々この政策を盛り込んだ。立憲は消費減税について、コロナ禍を受けた「時限的なもの」と極めて消極的に位置づけたが、メディアは消費減税ばかりに大々的にスポットを当てた。結果、立憲は衆院選で公示前議席を割り、当時の枝野幸男代表は辞任。枝野氏はのちに「消費減税を言ったのは政治的に間違いだった」と総括した。
以来立憲は、消費減税について以前にも増して慎重な姿勢をとっている。立憲は11月に発表した新しい経済政策で、物価を上回る3%の名目賃金上昇率の実現や教育無償化の推進、中小・零細企業への公的助成による「最低賃金1500円」の実現、非正規雇用の処遇格差是正、再生可能エネルギー産業への大規模投資などを打ち出したが、消費税については「現行の軽減税率制度を廃止し、給付付き税額控除を導入する」と記述するにとどめた。
消費税が持つ「逆進性の高さ」について、減税そのものではなく、税率を下げずに富裕層から多額の消費税を徴収した上、低所得者に減税分を還付する形で対応する、という内容だ。
「消費減税をしなくても(しないほうが)低所得者への負担軽減はできる」ことを示したと言える。
今回の共通政策について、市民連合はこうした立憲の姿勢に配慮したのだろう。消費減税にこだわっていては、野党はまとまれない。低所得者にしっかり目配りする政策があれば、その方法はあえて問うべきではないと。
その結果、共通政策には消費減税の代わりに「逆進性の強い税制の是正と社会保険料負担の適正化」という文言が盛り込まれた。消費減税でも給付付き税額控除でも「乗れる」文言だ。実際、この文言に各党が「乗った」。今後、消費減税を激烈に主張する政党が、市民連合の共通政策をタテにして立憲に「消費減税」を求めて揺さぶりをかけることは、極めて難しくなる。
政治状況を読んで立憲主軸の「大きな構え」構築を重視し、共通政策を地味にアップデートさせた市民連合に、筆者は前回衆院選以降の成長をみる。高く評価したい。
市民連合の共通政策によって、立憲はまず、前回衆院選でも「共闘」できた比較的近い野党(俗に「立憲野党」などと呼ばれる政党群)との間で、ともに闘う「構え」を作ることに成功した。
立憲と共産の間に亀裂を生むのに有効に作用した「立憲共産党」、立憲と主にれいわとの間にくさびを打ち込んできた「消費減税」という、野党陣営にとって「負のパワーワード」となっていた二つの言葉は、これによって相当程度無効化した。外野がいくら「立憲共産党」や「消費減税」と騒いで野党を「多弱」のまま固定しようとしても、当事者たちはそんな喧騒に構わず、連携を強めることができたのだ。
筆者はこれまで、衆院選を「自己責任社会を目指す自民」vs.「支え合いの社会を目指す立憲など」の2大政治勢力による選択肢の提示であるべきだと、たびたび指摘してきた。その意味で、立憲をはじめ野党各党と市民連合が「立憲共産党」などのネガティブキャンペーンにひるむことなく、ともかくも21年の前回衆院選のレベルまで協力関係を再構築できたことは、高く評価したい。
「自公政権vs.立憲など4野党」の2大政治勢力による「社会像の選択肢の提示」という意味でも、望ましい流れだと考える。
しかし、2021年衆院選の段階では「ここまで」で良かったかもしれないが、現在の政治状況はもしかしたら、立憲に「それだけではすまない」行動を求め始めるかもしれない、と感じている。自民党と岸田政権が、予想をはるかに上回る速さで崩壊過程に入っているからだ。今後の検察の捜査の展開にもよるが、国民世論が野党側に「政権奪還の現実味」を求め始めたら、立憲はどうするのか。
現在の立憲の衆院での議席数は、増えたとはいえまだ100議席を割っている。自前で擁立できた候補予定者も約170人で、全員が当選しても単独では政権には届かない。また、現在の野党4党による協力の枠組みだけでは、数の上でもスタンスの幅の上でも、自公政権に追いつける現実味を持たせることは難しい。
立憲は明らかに、低迷から反転攻勢のフェーズに入った。そうであればこそ、泉執行部は今後、これまでにない難しい党のかじ取りを迫られる。正解などどこにもないだろう。失敗すれば、ここまでの反転攻勢そのものが失速してしまいかねない。
泉執行部だけではなく、同党の所属議員全員が、めまぐるしい状況の変化に対し間違いのない行動を取れるよう、緊張感を持って臨むことが求められている。
———-
———-
(ジャーナリスト 尾中 香尚里)