おととし5月、北海道帯広市で、交際していた高校教諭の女性を殺害した罪などに問われた36歳の元同僚の控訴審…札幌高裁は11日午前、被告が一緒に死ぬことを前提とせず、女性の承諾があったとする1審の懲役6年6か月の判決を破棄し、釧路地裁に審理を差し戻しました。
片桐朱璃(しゅり)被告36歳は、帯広市の高校教諭だったおととし5月30日、市内のパチンコ店の駐車場の車内で、北見市の教諭、宮田麻子さん(当時47歳)の首をシートベルトで締めて殺害した上、遺体を市内雑木林に埋めた罪に問われています。
片桐被告と宮田さんは、同年3月までオホーツク地方の高校の同僚で、それぞれ妻、夫、子どもがいましたが、2018年から男と女の交際関係でした。
裁判員裁判だった1審の釧路地裁で、検察は「宮田さんは、自分と一緒に(片桐被告が)死ぬことを前提に承諾したが、被告人は死ぬつもりがないのに、あるように装って殺害した。自己保身のための身勝手な動機に酌量の余地はない」として、殺人罪などで懲役13年を求刑。
これに対し、片桐被告は「やったことについては、間違いありません。ですが、相手の同意があったと認識しています。この人から逃げるために、これが終わるために、逃げたい、死にたい、その一心でした」などと、承諾殺人を主張。
弁護人も、関係解消を拒まれ続けた末に「極限まで追い詰められて『もう、死ぬしかない』と口にした。万策尽き果てたことによる自然な思考や感情。追死を装ったわけではない。被害者の落ち度が大きい」としていました。
去年7月28日の判決公判で釧路地裁は、犯行の2か月ほど前の4月3日だけで宮田さんから666回の着信、宮田さんの要求に応じた現金700万円の支払いなどを事実として認定。
その上で「被告人において、被害者と死ぬつもりがなかったと認める一方で、被害者は被告人が生き残る可能性をわかっていながら、異を唱えることも抵抗することもなかったため、被告人の死は承諾の前提としない」などとして、被告側の主張する承諾殺人罪を適用し、懲役6年6か月を言い渡しました。
懲役6年6か月は、承諾殺人罪の上限の7年に迫るものの、殺人罪で求刑の懲役13年の半分…この判決を不服とし、検察が控訴。
去年12月21日の控訴審の初公判は、検察が求めた宮田さんの夫の証言など、新たな証拠採用を全て却下、わずか10分ほどで結審していましたが、札幌高裁は11日午前、承諾殺人罪を適用した1審判決を破棄し、釧路地裁に審理を差し戻しました。
<1審判決を破棄、審理差し戻しの主な理由>
・被害者は「もう、死ぬしかない」という被告の言葉を聞いて、衝動的に死を決断 ・被告はゴム手袋をはめるなど、主体的で冷静な判断 ・被告との体格差や準備していた背景から、被害者は抵抗を示さなかったというより、示せなかった ・1審判決の「被害者は抵抗することもなく」という前提は却下されるべきものか、論理の飛躍 ・被害者は、被告が妻子と同居していることを知っても離婚を求め、不貞関係を続けようとしていた ・このような心理、行動から考えると、自分だけ死んで、被告が生き残り、妻と暮らしていくことを容認したとは考え難い ・一緒に死ぬことを前提として、先に死ぬことはあっても、追死してくれるものと考えていた ・承諾殺人と判断したことは、客観的な状況だけでなく、行動傾向など、多角的視点を欠いたもの
頭髪は丸刈り、メガネをかけ、黒のスーツ、白いワイシャツ姿で出廷した片桐被告…真っ直ぐ裁判長を見つめ、判決を聞いていました。
また、判決後、弁護人は取材に対し「残念です。被告がかわいそう。上告については検討中だが、今のところ、しない方針。被告は1審の時から判決に従う姿勢なので」と話しています。
<これまでに検察と被告・弁護側が明らかにした経緯など>
■検察
・2016年に同僚となった際、すでに片桐被告に妻、宮田さんには夫と2人の子ども ・18年から交際「妻と離婚する」などとウソをついて、関係継続しながら解消も考える ・21年、妻との間に子どもが生まれる ・22年、帯広市の高校に異動、解消に向けて連絡避ける ・頻繁に宮田さんから連絡あり
・5月29日、顧問をしていた野球部の練習場を訪問される ・5月30日、高校に駐車していた車の中が荒らされ、隠していた住所知られる ・自宅前で待ち伏せされ、走行中の車内で妻と別れることを要求される ・関係解消も継続も不可能と考え、パチンコ店の駐車場で「もう、死ぬしかない」と伝える ・宮田さんが頷いたので「自分も死ぬのであれば、死ぬ気になった」と認識 ・一緒に死ぬつもりがあるかのように装い、殺害することを決意
・後部座席に移動し、お互いの首にシートベルトを二重に巻き付ける ・自分だけゴム手袋はめる ・お互いに引っ張り合うも、約10分後、宮田さんだけ窒息死 ・遺体を自分の車に移して出勤、授業や野球部の活動こなす ・雑木林に遺体を埋め、宮田さんのスマートフォンや車検証焼いて痕跡隠滅 ・アダルトサイト閲覧
■被告・弁護側
・2018年、宮田さんから誘われて交際スタート ・19年、関係解消望むも拒まれ、ヒステリー、50回を超える着信の日も ・別れるなら「700万円ある」と話した全財産を払えと要求され、まず、300万円払うも関係解消できず
・22年4月、帯広市の高校に異動、住所は隠す ・4月3日だけで666回の着信、高校職員への電話も ・「押しかけられるのが嫌なら、金を払え」と要求され、残りの400万円支払う ・それでも宮田さんの態度変わらず、5月29日、野球部の練習場を訪問される ・仕事があると偽り、高校に車を止めて、タクシーで帰宅
・5月30日、高校に行くと、車内が荒らされていて、ワクチン接種券から隠していた住所知られる ・「あなたの家の前にいる。早く来たほうがいい」と連絡あり、自宅へ ・宮田さんの車の中で「(妻と)別れないなら、赤ちゃんと奥さんを殺す」と言われる ・「もう、死ぬしかない」と伝えると、2回頷いたので、同意があったと認識して殺害 ・宮田さんを殺害後、自殺しようとしなかったのは「家族を思い浮かべ、一緒に暮らしたいと思ってしまったから」