能登半島地震で被災した「のとじま水族館」(石川県七尾市)で飼育されていたジンベエザメのハチベエ(オス、体長4・6メートル)とハク(メス、同4・9メートル)が相次いで死んだ。ジンベエザメは世界最大の魚類で、体の斑点模様と悠々と泳ぐ姿が人気だ。国内の水族館は知恵を出し合って2頭を助け出す方法を模索したが、人命救助や支援物資の輸送でも課題となっているアクセスの難しさが立ちはだかった。関係者は「選択肢を見つけられなかった」と残念がる。
ジンベエザメの飼育では国内トップクラスの沖縄美ら海水族館(沖縄県)。同館統括の佐藤圭一さん(52)は、日本動物園水族館協会の執行理事も務めるサメの専門家だ。今回、のとじま水族館からの「SOS」を受けて救出作戦を展開した。佐藤さんのもとに被害状況が届いたのは、1日の地震から2日後の3日。「かなり絶望的な状況だった」という。
のとじま水族館によると、ジンベエザメの水槽に水を送る配管が損傷したほか、水を循環させるポンプが水没。1日夜には水位が半分以下に低下していることが分かり、海水を加える措置を取った。水位は6日に回復したが、ろ過・加温装置も停止し、水温は通常の25度から約17度にまで下がった。
2頭を救うべく、佐藤さんはすぐに飼育実績のある海遊館(大阪市)や横浜・八景島シーパラダイス(横浜市)、いおワールドかごしま水族館(鹿児島市)に声を掛け、協議を始めた。損傷した機器の修理には時間がかかる。別の場所に移送する案も浮上したが、水槽を積んだ大型トレーラーで現地に向かい、大型クレーンを使って2頭を移し替える必要があった。「可能ならやりますよ」。海遊館が応じたが、水族館のある能登島に向かう道路や橋は被害を受け、大型車がたどり着けるか見通せない。それ以上に、倒壊家屋や土砂崩れの現場で人命救助が続く中、重機を借りることははばかられた。
海への放流も検討した。2頭は元々、石川県沖で2022年8月に定置網に迷い込んだ個体だ。のとじま水族館では水槽の大きさとの兼ね合いで、ジンベエザメが成長すると放流してきた。佐藤さんによると、ジンベエザメは比較的低水温でも活動できるが、現状の海水温は14度ほどと低すぎ、断念。「時期も悪かった」という。
最適な選択肢は見つからず、水槽の環境を維持しながら2頭の飼育を続け、移動できるタイミングを待つしかなかった。海水を注入し、水槽がある部屋の温度を上げて間接的に水温を調節。飼育実績のある水族館が水温や水質のデータを共有し、サポートした。しかし、次第に水の濁りがひどくなり、7日にはハチベエの様子が目視で確認できなくなった。地震から1週間以上生き延びた2頭だったが、9日昼ごろにはハチベエが、10日夕方ごろにはハクが底に沈んで死んでいるのが確認された。
のとじま水族館の担当者は「2頭は水族館のシンボルだった。残念な思いでいっぱいだ」と話した。佐藤さんは「最後まで望みをつないでくれた飼育員には敬意を表する。ジンベエザメの飼育は水質管理が重要で、どうやって持ちこたえたのかと不思議なくらい頑張ってくれた。残念な結果になったが、災害時のリスクにどう備えるか、今後の教訓として生かしていきたい」と振り返った。
同館では順次、他の生き物の移送も進めており、命をつなぐ作業が続いている。【野田樹、菅沼舞】