昭和41年、静岡県でみそ製造会社の専務ら一家4人が殺害された事件で死刑が確定した袴田巌さん(87)の再審第6回公判が16日、静岡地裁(国井恒志裁判長)で開かれた。検察側が犯行着衣と主張する「5点の衣類」について、弁護側が改めて「捜査機関が捏造(ねつぞう)したものだ」と主張。犯人像についても「動機は怨恨(えんこん)で、複数人による犯行だ」と訴えた。
検察側は、5点の衣類のズボンには袴田さんのすねの傷と一致する穴があると主張していたが、弁護側は、傷は「逮捕後の取り調べで負わされた」と指摘。ズボンなどの損傷部分は「袴田さんの傷に合わせて捜査機関が作った」と主張した。
また、被害者は縄などで身動きがとれない状態で殺されており、「一人でできる犯行ではない」と指摘した。
亡き弁護団長へ、感謝胸に
袴田巌さんの再審公判を巡っては、主任弁護人を務め、再審開始決定を勝ち取った西嶋勝彦さんが今月7日に82歳で死去。袴田さんを含めた関係者が高齢となるなか、再審手続きが長期化した影響が、改めて浮き彫りになっている。
出廷を免除された袴田さんに代わり裁判に参加している姉、ひで子さん(90)はこの日、支援者が用意した西嶋さんの写真を手に静岡地裁に入った。「長い裁判ですからね。『長い間、本当にありがとう』という言葉しかありません」。閉廷後の会見で、ひで子さんは感謝の言葉を口にした。
事件から約57年を経て、ようやく開かれたやり直しの裁判。先月まで再審公判に参加していた西嶋さんだが、判決を聞くことなく亡くなった。
弁護団によると、公判は5月22日に最終弁論を行う方向で調整している。「もう半年、生きていてほしかった」とひで子さん。自身も高齢だが、「ともかく私は裁判所へ出席することだけが仕事だと思って、がんばってまいります」と話した。
西嶋さんと長年、刑事弁護に取り組んできた田中薫弁護士は「力を合わせ、袴田さんに本当に自由が来る日までがんばらないといけない。それが西嶋先生に対する恩返しだと思っている」と決意を語った。