《ガチンコ勝負》麻生太郎が蛇蝎のように嫌う石破茂は有力候補になれるか? ポスト岸田は“あの男”がカギを握る

ついに逮捕者も出た安倍派のウラ金問題。深刻な政治不信から岸田内閣は支持率低迷が続き、自民党内でも内閣存続ではなく、岸田退陣のシナリオやポスト岸田の顔ぶれに関心が移っている。岸田内閣の「Xデー」はいつなのか? 永田町の事情通“赤坂太郎”が迫る!
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「嶋田秘書官も困り果てている」
首相の岸田文雄が2024年9月の自民党総裁選で再選されると思っている議員が党内にいるとすれば、本人ただ1人だろう。派閥の政治資金パーティーを巡る問題で、東京地検特捜部が安倍派を強制捜査する事態になったというのに、「絶対に辞めない」と周囲に言い放ったという。
その言葉は相変わらずの鈍感力の発揮なのか。あるいは心中に期すものがあるのか。もともと決して多弁ではない岸田の口数はますます減り「嶋田隆首席秘書官も真意をつかめずに困り果てている」との声が官邸から漏れ伝わってくる。
当初から、岸田はこの問題に危機感が薄く、対応は後手に回った。安倍、麻生、茂木、岸田、二階の各派が、パーティー収入を政治資金収支報告書に過少記載しているとして政治資金規正法違反(不記載・虚偽記入)容疑で刑事告発されていたことが公になった23年11月下旬、岸田は「それぞれの政治団体で責任を持って点検し、適切に対応すべきだ」と他人事のように派閥任せにした。
12月に入って安倍派の1億円を超える裏金づくり疑惑が報じられ、初めて「党として対応する」方針を示したが、パーティー自粛の指示、次いで自身の岸田派離脱と場当たりな対応を小出しにした。「有事対処のイロハも知らない」(党関係者)というほかないお粗末さだった。
12月14日に官房長官の松野博一、経済産業相の西村康稔ら安倍派の閣僚4人を更迭した人事も、舞台裏は混乱の連続だった。岸田は10日には安倍派の政務三役15人を全員、交代させる腹を固めていた。「大胆な決断で世論にインパクトを与える」(官邸筋)狙いからだ。
ところが、政務三役のうち誰が、パーティー券の販売ノルマを超えた分を派閥からキックバックされていたのかさえ、把握していなかった。「検察の捜査情報がまるで入っていなかった」(首相周辺)のだ。
さすがに潔白の政務三役のクビを切っては筋が通らない。翌日に慌てて調べたところ、キックバックを受けていない政務官が複数いたことが確認された。それもそのはずである。若手議員の多くはパーティー券販売のノルマ分で精一杯というのが実情。岸田の決断は空回りし、政務官6人の更迭は取りやめになった。
更迭した松野の後任人事も迷走した。岸田は副総裁・麻生太郎の意向を踏まえ、無派閥の前防衛相・浜田靖一に就任を打診した。派閥の不祥事で揺らぐ政権を立て直すには無派閥議員が望ましく、浜田なら1993年初当選の同期で気心も知れている。だが、浜田は「俺には荷が重い」と固辞し、安倍派の高木毅が退いた国対委員長の後任に回った。
皆が逃げ出す「泥船政権」
浜田は国防族の大物で与野党に広い人脈を持つが、毎日2回の記者会見で政策万般に関して説明しなければならない官房長官に適任とは言い難い。今や岸田が唯一、頼みとする麻生の推薦だったにせよ、追い詰められた岸田の人選ミスは明らかだった。茂木派の前厚生労働相・加藤勝信にも断られ、結局は岸田派の前外相・林芳正に落ち着いた。
麻生は親中派の林を嫌っており、起用に難色を示したが、他に火中の栗を拾う議員はいなかった。固辞した浜田に他意はなかったにせよ、岸田政権が最早、誰も乗りたがらない泥船だと知らしめる結果になった。
安倍派切り人事後の毎日新聞の世論調査では、岸田内閣の支持率は16%と続落した。不支持率も79%に及んだ。世論も、岸田が9月までの総裁任期中に支持を回復し、衆院解散・総選挙に打って出るチャンスがあるとはみていないのだ。
岸田は人事に先立つ記者会見で、2024年度予算成立後に内閣総辞職する可能性と9月の総裁選出馬の意向を問われ、珍しく率直に「今は先のことを考えている余裕はない」と語った。だが、党内の関心はすでに「先のこと」のみ。すなわち岸田退陣のシナリオ、ポスト岸田の顔ぶれに向かっている。
まずは岸田がいつ、どのように辞めるのかだ。1月下旬に通常国会が召集された後、少なくとも24年度予算が成立する3月下旬までは続投してもらわなければならない。それ以前に岸田が職を投げ出せば、予算案の審議は中断され、年度内の予算成立は難しくなる。4月以降の国民生活や地方行政に大きく影響し、自民党への逆風はさらに強まる。
岸田も3月末に見込まれる税制関連法案の成立は是が非でもやり遂げたい。内閣支持率を急落させてまで決めた所得税、住民税の定額減税を盛り込んでいるからだ。米大統領バイデンから国賓待遇を受ける、春の訪米にも強くこだわる。
いま直ちに党内で「岸田降ろし」の動きが起きないのは、こうした事情からだ。同時に「4月に花道を作れるかどうかだ」(閣僚経験者)との声がじわじわ広がっている。逆に言えば、3月末の予算成立後も岸田が自ら身を処す素振りを見せなければ、辞任論が一気に噴き出す。
捜査の結果次第で大型補選に
4月退陣論の背景には、前衆院議長・細田博之の死去に伴う島根一区補選が4月16日に告示、28日に投開票される政治日程も大きい。東京地検の捜査次第で3月15日までに複数の議員が辞職・失職した場合、大型の補選になるのだ。
そうなる前に、新たな「顔」を選ぶべきだという声が党内で説得力を持つのは当然である。仮に岸田政権のまま大型補選に突っ込めば、苦戦は火を見るより明らかだ。惨敗すれば、結局は岸田の進退に直結する。
だが、自民党にとって頭が痛いのは、東京地検の捜査自体が、政局の変数になっていることだ。特捜部は安倍派議員を数十人規模で事情聴取するために、全国から応援の検事を集めたが、1月下旬の通常国会召集までに捜査に区切りがつくのか、まったく見えない。
派閥の会計責任者による不記載・虚偽記入を立件したとしても、肝心の国会議員がおとがめなしでは、今度は検察庁が国民の信頼を失うことになる。安倍派幹部ら議員の立件が難航すれば、捜査は短期間では終わるまい。とはいえ、国会の会期中に議員に対する事情聴取を続ければ、国会審議の妨害と非難されかねない。6月の閉会を待つならば、捜査は長期化してしまう。
自民党としては、岸田が退陣するなら裏金問題の責任を一身に背負って去ってもらうことが望ましい。衆院議員の任期は折り返しの2年を過ぎ、新政権が心機一転、高い支持率で始動できれば、解散・総選挙の好機になる。新政権が裏金問題を引きずるわけにはいかないのだ。
こう計算すれば、捜査に一定のメドが付くまでは、岸田に首相の座にとどまってもらう必要がある。
では、いつ捜査に区切りがつくのか。何人の議員に司直の手が伸びるのか。永田町はその行方を見守り、その間はレームダックと化した岸田政権が超低空飛行を続けるという異常な政治風景が広がる。
すでに岸田政権には国民の負担増になる政策を進める体力は残っていない。自民、公明両党が23年末に決めた与党税制改正大綱では、子育て世帯や企業への減税策が並び、防衛増税の開始時期は決定できなかった。
岸田がこれ以上、政権運営を続けること自体が政治停滞であり、長期化するほど社会保障制度の維持をはじめとする重要政策の推進は難しくなる。こうした正論を、空気を読まずに吐く政治家の筆頭格が、無派閥の元幹事長・石破茂である。
石破は23年12月11日のBSフジ番組で、岸田の進退について「予算が通ったら辞めるというのはありだ」と述べた。この時点で党内の多くの議員が岸田の4月退陣を思い浮かべてはいても、公の場で口にしてはいなかった。それを先頭切って語る書生っぽさが石破の個性だ。
脱派閥で名乗りを上げた石破
ある党幹部は石破の発言を「次の首相はオレということだな」と受け取った。岸田政権が派閥政治の悪弊で倒れるなら、ポスト岸田のキーワードは「脱派閥」になる。脱派閥を体現できる有力議員が石破なのだ。
石破はかつて自身の派閥を率いたが、20年9月の総裁選で敗れ、派閥会長を辞した。その後、石破派は求心力を失い、人数も十数人に減った。21年末にかけもち可能な議員グループとし、事実上、解散した。
石破がカネ集めに疎く、子分の面倒見が悪かったから、派閥を維持・拡大できなかったと言ってしまえば、それまでだが、派閥政治の限界を知り、自ら決別した議員と評することもできる。加えて知名度は抜群に高く、世論調査の「次の首相」ランキングでも常にトップを争う。
石破グループでは久々のチャンス到来に「今は余計な発言をせずに自重してほしい」「いや、堂々と正論を唱えてこその石破茂だ」といった相反する意見が飛び交っている。
石破の弱点は党内の議員に人気が広がらないことだ。自民党が政権を失う前夜の09年7月、首相だった麻生に現職の農水相でありながら、財務相だった故与謝野馨とともに早期退陣を直言したことから、麻生には蛇蝎のように嫌われている。
岸田退陣への言及についても「やはり石破は皆が苦しい時に後ろから鉄砲を撃つ」(中堅議員)と評判は芳しくない。政策には通じているが、オタク気質で細部に入り込みすぎる。大局を見失わないかとの懸念も付きまとう。
石破が次期総裁の有力候補になれるかどうかのカギを握るのは、同じく無派閥の前首相・菅義偉だ。(文中敬称略)

本記事の全文 「ホスト岸田は菅対麻生のカチンコ勝負 赤坂太郎 特別編」 は、「文藝春秋」2024年2月号、および「文藝春秋 電子版」に掲載されています。
(赤坂 太郎/文藝春秋 2024年2月号)

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