今月8日から1週間、能登半島地震の被災地を取材した。家を失い、断水が続く…誰にとっても過酷な環境。障害や持病がある人・妊娠している人など、特別な配慮が必要で共同生活が難しい人たちがいる。安心して過ごすための「福祉避難所」の開設は、まだ進んでいない。(news23ディレクター 柏木理沙)
「周囲の理解があり安心して過ごせる場所を…」避難所での共同生活難しい家族も
輪島市深見町の岩崎香さん(46)と、長男の佑輝さん(11)は、同市釜屋谷町の福祉施設に避難している。カメラに向かってピースサインをした佑輝さんは、発達障害がある。タブレットで同じ動画を繰り返し再生しながら、避難している部屋と別の広間とを行き来していた。
岩崎香さん「自宅の1階は全部ガラスが割れてしまい、住める状態ではなくなりました。地域の避難所がありますが、息子は自閉症で、このようにうろうろしたり、睡眠障害もあるので、共同生活は難しいなと判断しました。しばらくは被災した自宅1階の小さな部屋で、家族皆で過ごしていたのですが、余震も多く、電気も電波もなく、何の情報もないのが不安で…。いつ母屋が倒れてくるか分からない状況だったので、こちらの施設に助けを求めました」
避難先の福祉施設は、日ごろから、佑輝さんがショートステイ先として月に1回滞在している場所だ。佑輝さんの将来の自立を考えて、親がいなくても生活できるようにと、震災以前から利用している。広間の窓辺にあるソファの一角が、佑輝さんのお気に入りだという。
香さん「息子が慣れた場所に避難できたのは、本当に助かります。慣れない生活環境になると、ご飯も食べられなくなってしまうので…。飛んだり跳ねたりもしてしまうし、大きな声も出してしまう。偏食もあって、お皿が違うだけでもだめなので…一般的な避難所などでの団体生活は難しいのかなと。いろんな人に迷惑をかけてしまうので」
障害がある人のほか、妊婦や、細やかな医療的ケアが必要な人など、一般的な避難所での共同生活が困難な人たちがいる。そうした人たちが必要としているのが「福祉避難所」だ。取材した1月9日時点では輪島市内で2か所のみにとどまっていた。災害時に開設する協定を市と結んでいた施設自体が被災していることなどから、難航していると言う。
石川県は8日、金沢市のスポーツセンターを「1.5次避難所」として開設したが、香さんは、そこへの避難も厳しいと考えている。市外に避難するとしても、その避難先で、周囲の理解を得られるのか。次の避難先の見通しは立っていない。
佑輝さん「パパは?」香さん「パパはね、今ここにはいないんだ」佑輝さん「・・・」
岩崎さん親子は個室に避難することができたものの、家族全員が入れる広さはない。香さんの夫は、9日時点で小松市に避難しているという。
香さん「息子はあまり自分の気持ちを出せないんですけど、家族離れ離れになっていることへの不安もあるようですし…。余震が来ると『こわい』と言います。でも、この子なりにも頑張っていると思うんです。慣れない環境のなかで、比較的おとなしくしてくれているのかなと思うんです。ただ、やっぱり自傷行動というのか、親指のあたりを傷つけて赤くなってしまったりとか、ストレスはたまっていると思います」
「自分たちは恵まれているから」と話す香さんだが、その表情は張りつめていて、不安な気持ちを押し込めているようだった。時々言葉を詰まらせながら、話してくれた。
香さん「親もどうしたらいいかわからないんです。目を離してはいけないし、つきっきりで気を張っているところがあって…。他にももっと大変な思いをしている親子がたくさんいると思うので、安心して避難できる福祉避難所が早く増えてほしいと本当に思います」