36人が死亡、32人が重軽傷を負った令和元年の京都アニメーション放火殺人事件で、殺人罪などに問われた青葉真司被告(45)の裁判員裁判の判決公判が25日、京都地裁で開かれた。増田啓祐裁判長は主文言い渡しを後に回し、判決理由の朗読から始めた。検察側は死刑を求刑しており、厳しい刑が予想される。
最大の争点は刑事責任能力の有無。完全責任能力を主張する検察側に対し、弁護側は妄想性障害の影響で心神喪失か心神耗弱の状態だったと訴えていた。
被告はこれまでの公判で、京アニの小説コンクールに落選し、アイデアを盗用されたことなどが動機だと述べている。盗用は被告が抱いていた妄想の一つで、責任能力を判断する上で、こうした妄想が事件に与えた影響をいかに評価するかが焦点となった。
被告には起訴前後、異なる専門医による2回の精神鑑定が行われた。責任能力を巡る審理では、起訴前の鑑定医が被告は性格に著しい偏りがある「妄想性パーソナリティー障害」との鑑定結果を示し、妄想は犯行に直接影響していないと説明した。一方で起訴後の鑑定医は、被告は重度の「妄想性障害」だとし、犯行の背景に関連していると証言した。
また公判では被告が事件直前、現場周辺で犯行を逡巡(しゅんじゅん)したことも明かされた。被告は「こんな悪党でも良心の呵責(かしゃく)がある」と述べた。
検察側はこうした点を踏まえ、被告が善悪を区別し、それに従って行動できたとして、完全責任能力があったと主張。論告では犯行の計画性や社会的影響の大きさを指摘し「うまくいかない人生の責任を京アニに転嫁した。理不尽そのもので身勝手極まりない」と述べた。
これに対し弁護側は、被告が10年以上妄想の世界で生き、その影響で善悪の区別や行動を制限する能力が失われていたと主張。心神喪失が認められなかったとしても「責任能力は大きく減退していた」と強調した。このほか死刑(絞首刑)の残虐性や、スタジオの構造が影響して火の回りが早くなり、被害が拡大した面があると酌量を求めた。