公判で青葉真司被告の「孤独」浮き彫り、識者は「社会とつながりもてる仕事」への支援訴え

「家族は戻らない。むなしい」――。36人の犠牲者を出した京都アニメーション放火殺人事件で、青葉真司被告(45)に死刑を言い渡した25日の京都地裁判決。遺族らの無念さが晴れることはなく、法廷にはすすり泣く声が響いた。

京都地裁判決は、青葉被告が事件を起こした背景に周囲からの孤立が影響していることも否定できないと指摘した。識者は対策に就労支援の充実を挙げる。
公判では、被告の生い立ちが明かされた。9歳で両親が離婚し、父親から身体的・心理的虐待を受け、困窮した家庭で育った。成人してからも職場の上司とトラブルを起こすなどして、派遣の仕事を転々とした後、30歳頃から無職だった。
被告は被告人質問で「友人はいないし、職場での結びつきもない。最終的に人に会うのも嫌になり、会わなくなった」と述べた。
その上で、大量殺人計画について、2008年の東京・秋葉原無差別殺傷事件に影響を受けたと言及。同事件を起こした男について「底辺の人間ほど余裕がない。自分も何をやってもうまくいかず、人ごとと思えなかった」と話した。
21年の大阪・北新地クリニック放火殺人事件や、京王線や小田急線の電車内で乗客が無差別に襲撃される事件など、孤立した人が起こす事件は後を絶たない。
国は23年、社会で孤独や孤立を感じている人を支援する対策推進法を制定し、対策に取り組む民間団体の支援を拡充するなどしている。孤独・孤立対策に詳しい石田光規・早稲田大教授(社会学)は「孤独を感じている20~40歳代の男性は多いが、支援の選択肢が少ない。社会とのつながりがもてる仕事を持つことが大事で、それぞれの事情に応じたきめ細かい就労支援に力を入れるべきだ」としている。

公判では犠牲者36人中19人と負傷者ら34人の計53人が匿名で審理された。被害者保護が目的とみられるが、京都地裁は最後までその理由を明らかにしなかった。専門家からは、匿名審理が過剰に拡大することへの懸念の声が聞かれた。
刑事裁判は、憲法82条で公開を原則としている。2007年の刑事訴訟法改正で、「被害者や家族の名誉や社会生活の平穏が著しく害される恐れがある事件」は匿名審理が可能になった。
今回の公判では、遺族が匿名を希望したとみられる犠牲者らは「別表1の2の被害者」などと表現された。審理中、実名と匿名の犠牲者が混在し、青葉被告が「(実名の方が謝罪の気持ちを)思いやすかった」と述べる場面もあった。
しかし、大きく混乱する場面はなく、裁判員だった男性は判決後の記者会見で「事実関係の争いがなかったので、匿名でも問題はなかった」と述べた。
一方、地裁は公判でも、取材に対しても、匿名とした理由を説明しなかった。
刑事法学者らでつくる「司法情報公開研究会」は昨年8月、匿名審理について、地裁に慎重な判断を求める要望書を提出した。
メンバーの福島至・龍谷大研究フェローは「被害者に配慮することは重要だが、匿名審理が過剰に拡大し、裁判公開の原則が損なわれることがあってはならない」と指摘。「匿名だと裁判記録の閲覧も制限され、事後に裁判の検証ができなくなる。審理に本当に影響がなかったのか。地裁は匿名にした理由を含めて説明するべきだ」と話した。

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