障害者向けグループホーム(GH)の運営会社「恵」が利用者の食材費を過大徴収していた問題を巡り、同社のGHが所在する愛知県内の一部自治体が障害者虐待防止法に基づく「経済的虐待」(事業者の不当利得)と認定したことが明らかになった。
大村秀章知事が5日の記者会見で、同社GHでの過大徴収を巡り、2市が昨年までに経済的虐待と認定したと公表した。ただ、自治体名については「特定の個人が識別される恐れがある」として明らかにしなかった。
一方、愛知県幸田町は同日、毎日新聞の取材に、町内にある同社GHでの過大徴収を経済的虐待と認定するとともに、同社に改善計画書の提出を求めたことを明らかにした。
町によると、町内のGHでは利用者25人から約1200万円を過大徴収。町は徴収額と実際の支出額との差が大きく、返金に対する説明が不十分であることから経済的虐待と判断したとしている。
恵が運営するGHを巡っては、県内の26GHの利用者計654人から約2億1800万円の過大徴収があったことを県が公表している。他の複数の自治体も今後虐待を認定する方針。
同業者「食費に手を付けたのは問題」
障害者向けグループホーム(GH)を運営する「恵」で発覚した食材費の過大徴収。同業者は今回の問題をどう受け止めているのか。
「おいしいご飯があるから、帰りたくなる。そんな場所でありたい」。名古屋市内で10カ所の障害者向けGHを運営する会社の男性社長(44)が特に力を入れてきたのが、利用者に提供する食事だ。
昨年11月の夕刻、記者がGHを訪れると、キッチンではみそ汁の湯気が立ち上り、手際よく焼かれた肉の良い香りが広がっていた。
この日のメインはユーリンチー。フードコーディネーターの資格を持つ男性の母親が考えた献立を基に、各ホームで職員たちが手作りする。仕事を終えて帰ってきた利用者らのおなかを満たし、おいしそうな食事の写真はブログにもアップされている。
利用者には精神疾患のある人が多く、気持ちが不安定になりがちだったり、突然発作を起こして倒れたりする人もいる。「話を聞くことが一番大事」と男性自らが利用者たちと顔を合わせ、相談に応じることもある。「ここは利用者たちの生活の場であり、家なのだから」。そんな気持ちで向き合ってきた。
「(利益を上げるため)削れる部分は削りたいという気持ちは分かるけれど、利用者の食費に手を付けたのは大きな問題」と男性。一方、厚生労働省令ではGHでの食材費は調理にかかる実費のみを徴収すると規定されているが、男性は「実費徴収という規定は分かりにくいのも事実。利用者や現場のスタッフが困らないように自治体にはもっとルールを分かりやすく明確にしてほしい」と話す。【加藤沙波】