警察庁は5日、事件に巻き込まれて亡くなった被害者の遺族に対し犯罪被害給付制度に基づいて支払う給付金の最低額について、現行の320万円から1000万円超の水準に引き上げる方針を明らかにした。具体的な引き上げ額の詳細については今後、交通死亡事故で支払われる自動車損害賠償責任(自賠責)保険など他の公的給付を参考に決め、2024年4月以降の可能な限り早い時期から実施する。
政府は23年6月、加害者を相手取った民事訴訟での損害賠償額なども参考に給付水準の大幅な引き上げを検討することを決めていた。これを受け、警察庁は大学教授や弁護士、犯罪被害者遺族らで構成する有識者検討会を8月に設置し、24年5月までに具体策を取りまとめることにしている。
警察庁によると、遺族給付金の最低額の引き上げ方針は、5日に開かれた検討会で示された。現行制度の支給額は原則として320万~2964万5000円。亡くなった被害者の年齢ごとに定められた基礎額に、養っている家族の人数に応じて設定した倍数をかけて算出している。基礎額は、被害者が事件前の一定期間で得た収入を基に変動するため、子どもや仕事に就いていない大人の場合は低くなる傾向にある。22年度の遺族への平均支給額は743万円で、交通死亡事故での自賠責保険の平均約2500万円(21年度)を下回った。
今回の見直しでは、この基礎額の最低額を一律に引き上げる。支給対象者が配偶者(事実婚を含む)や子、父母の場合は精神的なショックから働けなくなることなどを考慮し、一定額を加算する。また、負傷した被害者が仕事を休まざるを得なくなった場合に支給される休業加算額や、障害を負った際に支払われる障害給付金の最低額も一律に引き上げる。
加害者に対する民事訴訟では1億円超の賠償が認められることもあるが、加害者側に資力がなく、実際に支払われない課題もある。警察庁は「(新たに示した最低額の引き上げを実施しても)民事訴訟における賠償額との差があるのは承知している。今後も制度の趣旨や財源などについて検討会で議論を続ける」としている。
警察庁が示した新たな方針について、新全国犯罪被害者の会(新あすの会)は5日に記者会見を開き、「(最低額の引き上げは)総額で相当なボリュームとなり、評価できる」とした。ただ、会が求めている加害者に対する損害賠償請求権を国が買い取る制度などに関する議論が進んでいないと指摘。警察庁の有識者検討会のメンバーで、1995年にあったオウム真理教による目黒公証役場事務長拉致事件で父を亡くした仮谷実・副代表幹事(64)は「財源をどうするかといった議論がもっと必要だ」と話した。【松本惇】