誹謗中傷160件、妻の写真流出 性加害実名告白の元ジャニーズJr.が受けたデジタル暴力

ジャニーズ事務所(現SMILE―UP.=スマイルアップ)のジャニー喜多川元社長(令和元年死去)による性加害問題を巡り、実名で性被害を告白した人たちへの誹謗(ひぼう)中傷が相次いでいる。大阪府内に住む元ジャニーズJr.の二本樹顕理(あきまさ)さん(40)もその一人。心身にダメージを受ける中、「被害者への中傷は命さえ奪う。絶対にあってはならない」と訴える。
被害受け鬱病も…
小学生のころ、母親と一緒に見たマイケル・ジャクソンのステージに魅了された。「歌って踊れるアーティストになりたい」。中学1年の夏、ジャニーズ事務所に履歴書を送り、オーディションに参加。1カ月もたたないうちに「KinKi Kids」のコンサートに他のJr.と出演した。
だが、充実した日々は一転する。入所から約3カ月後、喜多川氏からホテルに誘われ、その晩に性的被害に遭った。当時13歳。「頭が真っ白になった」。恐怖心で体が動かず、寝たふりをした。その後も「ユー、今夜泊まっていきなよ」とホテルに誘われ、1年半で10回ほど被害に遭った。
テレビ出演など活躍の場は増えたが、耐えきれなくなり、中学2年のときに退所。夢を断たれた喪失感や、性被害のトラウマによる精神的ダメージは相当なものだった。学校に行けなくなり「自分に価値はない」と自己嫌悪にさいなまれた。
その後、父親の仕事の関係で渡米。バンド活動をしたこともあったが、鬱病を患い「死にたいという自殺願望はずっとあった」。
21歳で帰国。その後カウンセリングを受け、ようやく心が楽になり始めた。ギターを教える音楽教室を開き、家族と穏やかな日々を送る中、昨年4月にカウアン・オカモトさんが喜多川氏からの性被害を告白した。たった一人で勇気を出して訴える姿を見て「自分も証言しよう」と決めた。
悪意に満ちた書き込み
昨年5月、実名で性被害を告白。しかし、それを報じたインターネットの記事のコメント欄には「金目当て」「売名行為」といった悪意ある書き込みがあふれていた。
「ジャニーズ性加害問題当事者の会」の発起人となり、メディアへの露出が増えるにつれ、誹謗中傷の内容はエスカレートしていった。
《抜かしてんじゃねーよ!卑怯(ひきょう)者》
《ジャニーズを辞めた負け犬》
X(旧ツイッター)などに投稿された内容は悪質で、デビューできなかった経歴を揶揄(やゆ)したり、人格を否定したりする文言も目立った。
《怖いよ。これから起こることが》といった脅迫めいた内容もあった。約7カ月間で交流サイト(SNS)などには中傷メッセージが約160件寄せられた。最も耐えられなかったのは、妻の顔写真がネット上に流出したこと。「自分だけの問題では済まないのか」。不安や焦燥感にさいなまれ、夜はほぼ眠れなくなった。
専門家「法的手段も」
こうした現状を大阪府警に相談し、昨年11月に被害届を提出した。
その場には同様に実名で被害を告白し、誹謗中傷を受けていた元Jr.の40代の男性もいるはずだった。だが男性は直前に自ら命を絶った。「もっと早く相談に乗ってあげられていたら」。救えなかった後悔の念に今もかられ、「誹謗中傷で被害者を追い詰めてはならない」。こう力を込める。
ネット上の問題に詳しい国際大の山口真一准教授(社会情報学)は「誹謗中傷する人は自身の正義感や価値観に基づき、意にそぐわない言論を封じようと過激に攻撃する」と指摘。対処策としてSNSであればミュートやブロック機能の積極的使用を呼びかける。その上で「命を脅かすようなメッセージには法的手段や刑事告訴に打って出ることが重要だ」としている。

ジャニー喜多川元社長による性加害問題を巡っては、900人以上が補償を求める事態となっている。スマイルアップは補償に向けて「被害者救済委員会」を設置。1月31日時点で被害者計190人と補償内容について合意し、うち170人に補償金を支払った。(宇山友明)

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