妻がくれた腕時計、動いてる ビルが潰した家から発見 能登地震

「あった! 時計!」。能登半島地震で根元から倒れたビルに押し潰された店舗兼住宅で、楠健二さん(55)は、亡くなった妻から贈られた銀色の腕時計を見つけた。石川県輪島市河井町で7日昼ごろ。がれきの奥でキラッと光った腕時計。泥が付いていたが、ちゃんと動いていた。
楠さんは6年前に川崎市から移住し、地元の海産物を売りにした居酒屋「わじまんま」を営んだ。元日、西隣の7階建てビルが、にぎやかに過ごしていた自分たちの3階建ての建物に倒れてきた。妻の由香利さん(48)と長女の珠蘭(じゅら)さん(19)を失った。楠さんは2人の葬儀などのため川崎で過ごした後、1月28日から家族の思い出の品を捜し続けてきた。有志の10人ほどが手伝ってくれるようになり、腕時計発見の瞬間は拍手が起こった。
待ち合わせの時間にいつも遅れてしまう楠さんに、由香利さんが「時間を守れるように」と昨年4月の誕生日にサプライズでプレゼントしてくれた。身につけるのは家族で出かける時などだけで、普段はテレビの上に大切に置いていた。
「誕生日はおめでとうの言葉だけでいいからって言っていたのに、プレゼントをくれた」と楠さんは笑った。腕時計と共に、近く避難先の川崎にいったん戻る。「まだ決めていないけど、女房と一緒に店を始めた場所だから、ここでもう一回、店をやるべきだと思う」。悲しみを越えて時を刻む腕時計が、楠さんの背中を押している。【山中宏之】

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