山形県議の政務活動費支出返還訴訟 違法支出は「事実誤認」と県が控訴 深層リポート

市民オンブズマン山形県会議が、山形県議の政務活動費に違法支出があるとして山形県知事に返還を求めた訴訟で、山形地裁は昨年11月、オンブズマンの主張を一部認める判決を下した。だが、山形県は「支出は適法。地裁判決には事実誤認がある」として控訴した。今後、どう決着するのだろうか。
「使途基準」は支出を許容せず
オンブズマンは平成29年3月、山形県議に支出された平成27年度分の政務活動費のうち、県議26人(当時)の政務活動費約2211万円を吉村美栄子知事に返還するよう求める訴訟を起こした。山形地裁の本多幸嗣裁判長は昨年11月、17人が支出した計約125万円を違法と認め、返還請求するよう、吉村知事に命じた。
一審でオンブズマンは、意見交換が主たる目的ではない懇親会の飲食費などは不当と訴え、県は「支出はすべて適正」と主張した。一審判決は、県議が参加した「新春名刺交換会」や「緑綬褒章受章祝賀会会費」などに支出された政活費を「目的は顔合わせなどで意見交換ではない」と指摘。その上で、「意見交換があったとしても(政活費の)使途基準は食糧費としての支出を許容していない」などと結論付けた。
山形県議会の「政務活動費の手引き」によれば、調査研究を目的にした会議と一体性と関連性がある場合などに自己負担分(会費、5千円以内)の支出を認めている。
また事務職員給与を政活費から出し、その適否を問われた県議もいる。政活費は、専門知識のある人を除き家族・親族への支出は原則認めていないが、オンブズマンは、名前を黒塗りにした人件費について「疑わしく違法だ」と主張。判決は、40万575円の返還を命じた。
県議の県政報告を記載した地域紙について、掲載内容すべてが議員活動に関連しているとはいえず適正ではないとして、印刷費を含む43万9791円の返還を求めた。
「正当性を主張」知事控訴
こうしたオンブズマンの主張を一部認めた一審判決について、吉村美栄子知事は「県側の主張が認められなかった部分には事実誤認があり控訴審で県の正当性を主張していきたい」と仙台高裁への控訴を踏み切った。ただ、一審判決すべてに事実誤認だというわけではなく「一部に誤認がある」(山形県議会事務局)という立場だ。
事実誤認の一例として吉村知事は、矢吹栄修県議の県政報告を記載した地域紙内の記事「やぶしゅう通信」への支出を挙げ、違法ではないとの見解を示している。
政活費は、会派または議員の広聴広報活動の経費支出を認めており、掲載した広報誌の記事中に政務活動以外の活動に係る部分がある場合は、1ページ内の記事の割合などで按分(あんぶん)(分ける)して支出するとしている。「やぶしゅう通信」は、地域紙内の裏表2ページの裏の1ページで、表の1ページは、経済人インタビュー記事で矢吹県議の県政報告とは無関係だ。このため矢吹県議は、1ページ分を支払ったが、一審判決は、1ページの半分しか認めないものだったが、その理由については明確に示さなかった。
矢吹県議は言う。「県政報告は、裏面のみ1ページ分を買い取り支払った。だが一審判決は、裏表の両方の半分という判断をして、2分の1しか認めないというのはおかしい」と憤慨。判決後も県政報告はこの地域紙で続けていくという。
県議が出した政活費を審査してきた山形県議会事務局総務課の鈴木智之副主幹は「山形地裁判決は、事実誤認している点もあり、県の正当性を主張していきたい」とし、吉村知事はじめ、山形県議や山形県議会担当者ら山形県側は、一審判決に異論を唱える。

■政務活動費 地方自治法は、地方公共団体は議会議員の調査研究その他の活動に資するため必要な経費の一部に会派または議員に政務活動費を交付できるとしている。山形県の場合、県政の課題や県民の意思の把握し県政に反映させるため、会派所属議員1人当たり3万円(毎月)、議員に28万円(同)を支給。使途は、県政に反映させる活動その他の住民福祉の増進のために必要な政務活動として、調査研究費や研修費、広聴広報費、人件費など多岐にわたる。

国会では自民党派閥の政治資金パーティー収入不記載事件を受け、「政治とカネ」の問題が集中審議され、政党から議員に支出される政策活動費の使途公開も議論されている。今後、県政運営をするなかで、透明性や適性かどうかにさらに厳しい目が向けられるのは間違いない。(柏崎幸三)

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