生活再建へ「傷み」見逃さぬ鑑定の目 地震保険、被災地で調査本格化

能登半島地震の被災地では、仮設住宅の建設など生活再建に向けた動きが加速し、地震保険の保険金支払い手続きも本格化している。損害保険各社は地震直後から被災各地に拠点を設け、保険金の早期支給に向け、100人態勢で被災地を駆け回っている。生活再建の元手ともなる地震保険の手続きの実態を知ろうと、被災家屋での立ち会い調査に同行した。
地震保険は建物や家財の損害の程度に応じて保険金が支払われる仕組み。損害程度は①全損②大半損③小半損④一部損-の4段階に分けられ、時価を限度に保険金が支給される。あいおいニッセイ同和損害保険(東京)では、立ち会い調査をスムーズに進めるため、地震直後に石川、富山、新潟3県で臨時拠点を立ち上げた。
1月下旬、同社が委託する名古屋市の鑑定事務所「名鑑」の鑑定人、杉浦康巳さん(56)らによる立ち会い調査に同行した。訪れた石川県七尾市の加入者宅は、記者が見る限り、家の外観に大きな損傷がない一方、家の中には壁などに複数の亀裂が入っている。
杉浦さんらは自宅の内外で損傷部分を確認し、本棚や冷蔵庫など壊れた家財の数を確認していった。鑑定中は損傷箇所を図面に記入し、タブレットで写真を逐一撮影しながら手早く報告書を作成。屋根など高所の損害を確認するためドローンも用い、傷一つ見逃さない姿勢だ。
結局、建物は一部損、家財が小半損の認定を受け、その場で約90万円の支払いが決まった。杉浦さんは「一つ一つの損傷程度はそこまでだったが、品数が多かった」と説明した。
地震当時は「家がつぶれるかもしれないと思った」という住人の40代女性。平成19年発生の能登半島地震をきっかけに保険に加入したという。今回の損害認定について「細かい損傷のこともたくさん話を聞いてくれて、ありがたかった」と話した。
次に鑑定人が訪れたのは、半世紀にわたって地域に親しまれてきた七尾市内の理容室。一見して損傷は少ないように見えたが、鑑定人が柱や内壁などを細かくチェックすると、柱の亀裂など損害箇所が次々に見つかった。建物と家財はいずれも全損と認定。総額で約600万円の支払いを受けることになった。
理容室を営む70代女性は「10万円でも出ればと思っていたが、こんなに出るとは。保険に加入していてよかった。生活を建て直すために活用したい」と涙を流して喜んでいた。
調査に立ち会ったあいおいニッセイ同和損保北陸損害サービス部の部長、河合信幸さん(53)は「震度が大きく、今回のように予想以上に損害があるケースもある。保険金を少しでも復旧のために役立ててもらいたい」と話した。
加入増も4割満たず
日本損害保険協会がまとめた能登半島地震の地震保険の保険金支払額は、1月末時点で約205億円にのぼる。相次ぐ災害などの影響で加入は増えているが、世帯加入率は全国でなお4割に満たない状況で、損保各社は加入を呼びかける。
協会の集計によると、主な支払額の内訳は石川県で約80億円、富山県で約64億円、新潟県で約52億円、福井県で約3億円。事故受付件数は約7万6千件あったが、調査が完了したのは約3万8千件で、今後さらに膨らむ見通しだ。
地震保険制度は昭和39年の新潟地震をきっかけに生まれた。支払いが巨額になるため、国と損保会社が共同で運営しており、火災保険とセットで加入する仕組み。補償内容は各損保会社で共通している。東日本大震災では支払額が1兆2894億円、熊本地震では3909億円に達した。
損害保険料率算出機構によると、地震保険の世帯加入率や火災保険への付帯率は、ともに右肩上がりに増加。平成6年度に全国平均で9・0%だった加入率は令和4年度に35・0%、付帯率は69・4%にまで上昇した。ただ地域差もあり、石川県の4年度の加入率は30・2%と、全国平均をやや下回る状況だ。(藤木祥平)

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