遺族「娘に代わって声届ける」 危険運転致死傷罪見直しへ議論開始

適用のハードルが高すぎるとの批判があった自動車運転処罰法の危険運転致死傷罪の見直しに向けた議論が21日、始まった。法務省が設置した有識者検討会には、刑事法学者や警察、法曹関係者らのほか、赤信号を無視した軽ワゴンとの事故で小学5年の娘を亡くした税理士、波多野暁生(あきお)さん(46)=東京都葛飾区=も名を連ねる。交通事故の被害者や遺族の代表として、直面してきた苦しみを伝えていくつもりだ。
波多野さんは2020年3月、長女の耀子さん(当時11歳)と自宅近くの横断歩道を歩いていたところ、時速約60キロの軽ワゴンにはねられた。歩行者側の信号は青信号だった。自身も重傷を負った波多野さんは搬送先の病院で耀子さんの死を知らされた。
危険運転致死傷罪には、「制御が困難な高速度」「正常な運転が困難な状態」で走行した場合に適用される規定に加え、「赤信号を殊更に無視し、かつ重大な危険を生じさせる速度」で車を運転する行為を罰する規定もある。
しかし、耀子さんの事故は当初、同法の過失運転致死傷罪で捜査が進められた。問題となったのは「殊更に」の部分だったといい、波多野さんは「条文の曖昧さ」に苦しんだ。
波多野さんは判例を調べ、民間会社に事故状況の鑑定を依頼。自らアクションを起こした結果、相手の運転手は危険運転致死傷罪で起訴された。運転手は22年3月に懲役6年6月の実刑判決を受け、確定した。
波多野さんは自身の経験を講演で紹介し、他の遺族とともに危険運転致死傷罪の積極的な適用を求める署名活動も展開した。
検討会での議論のスタートは地道な活動の成果だと感じている。「適切な刑罰が科されず、一番悔しい思いをしているのは被害者だ。法改正に向けた重い門がようやく開いた。娘に代わって声を届けたい」と訴える。【斎藤文太郎】

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