「オーバードーズ」を助長した格安販売 少年少女に市販薬さばいたトー横の「ぱんだ」 法廷から

東京・歌舞伎町で若者が集まる一角「トー横」で問題となっている市販薬のオーバードーズ(OD、過剰摂取)。現実逃避などで手を出し、救急搬送される未成年者が相次ぐ中、薬を若者に「供給」していた男の公判が東京地裁で開かれた。トー横では「ぱんだ」の名で知られたその男は、通常より安い価格で市販薬を販売。ODを助長していた。
40錠を1千円で
東京地裁で今月9日、医薬品医療機器法違反(無許可販売)に問われた無職の高橋光夢(ひろむ)被告(21)に、求刑通り罰金30万円の判決が言い渡された。
自身の交流サイト(SNS)でのアカウント名にちなみ、トー横界隈で「ぱんだ」と呼ばれていた被告。判決によると、薬を販売する許可がないにもかかわらず、トー横で昨年7月、当時18歳の男子高校生に市販のせき止め薬40錠を1千円で販売していた。
賀島敦裁判官は、売った薬が「過剰摂取に使用されるかもしれないと知りながら販売したことは、非難を免れない」と指摘した。
60人に1人経験
風邪薬やせき止め薬などを大量に服用することによるODは、一時的に気分を高揚させるとしてトー横に集う未成年らの間で流行していたが、意識障害や呼吸不全を引き起こす危険がある。
流行はトー横に限った話ではない。国立精神・神経医療研究センターが令和3年度に高校生を対象に行った調査では、約60人に1人が過去1年間に市販薬の乱用経験があると回答した。
厚生労働省などが行った調査では、市販薬のODが原因で搬送されたとみられる人は、昨年上半期に5625人。そのうち20代が約3割の1742人、10代は約15%の846人にのぼる。
「万引疑惑」は否定
「ぱんだ」から薬を購入した男子高校生も、乱用が目的だった。
検察側が提出した男子高校生の供述調書などによると、高校生は被告から薬を購入した後の昨年秋、「つらい気持ち」になり、せき止め薬15錠を摂取したという。
このせき止め薬の製造会社のウエブサイトによると、希望小売価格は40錠で税込み2400円ほど。被告の売値は半額以下となる。
格安で薬を売ってくれる被告の存在は「ぱんだ」の名とともに、トー横の若者らに知られるところになった。被告人質問で被告は、男子高校生以外にも「トー横で10人ほどに売った」と打ち明けた。
ただ、市販価格より安く販売していたため、どんなに売れても被告は損をすることになる。公判では検察側、弁護側双方から「万引で薬を入手したのでは」と迫られたが、被告は「違います」と否定。トー横で売りさばいたのは、自分用に買いためたものの残りだと説明した。
自身もOD、「将来はブリーダーに」
薬を購入した若者が「ODする予想はできた」とも述べた被告。公判では、自身もODをしていた過去を明かした。
母親からの虐待や友人の死を経験して自殺を考え、せき止め薬を大量に飲み込んで救急搬送されたこともあったといい、被告は「嫌なことから現実逃避したかった」と振り返った。
「これからは歌舞伎町への出入りを避けたい」などと公判で述べた被告。「将来はネコのブリーダーになりたい」とし、トー横の「ぱんだ」からの脱却を誓った。(橘川玲奈)

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする