『ママには内緒ねと言われ…』実父からの性的暴行を訴えた女性 親族は「親子で裁判なんかしてよいことあるわけない」「お金ならいくらでもあるから」と抵抗 一方で娘の被害に母は

実の父親から性的暴行を受けていたと訴える24歳の女性。MBSでは去年3月から1年間にわたり取材を続けてきた。そうした中、今年3月6日、父親は準強姦の疑いで逮捕された。逮捕の一報を受け、女性が思うこととは…。
「嫌なんですけど…感情があったら壊れるような感じがして」

3月6日に準強姦の疑いで逮捕された富山県黒部市の会社役員・大門広治容疑者(52)。捜査関係者などによると、大門容疑者は2016年、当時高校2年だった実の娘に対して、抵抗できない状態だと知りながら性的暴行を加えた疑いが持たれている。
娘の福山里帆さん(24)への実の父親である大門容疑者の性的暴行は、一度にとどまらず、中学2年から高校2年までの約3年間にも及んだという。
(福山里帆さん)「『これはママには内緒ね』って。(性的暴行を受けている際に)ずっと自分は天井を見ているんですけど、そのときに『嫌だ』という感情そのものが途中からなくなっていった。嫌なんですけど…感情があったら壊れるような感じがして、そっちの気持ちの方が大きかったですね。『嫌だ』という感情よりも『考えるのをやめよう』っていう感情が大きかったですね」
明るく振る舞った高校時代「死なない日を延ばしていた感じ」

富山県に生まれた里帆さん。幼少のころの写真には、旅行先で里帆さんを大切に抱きかかえた大門容疑者の姿が写っている。
(里帆さん)「いい人だった記憶があります。時々勉強も教えてくれることもあって。そういう意味ではすごく…父親らしいというよりかは尊敬できる人というイメージが強かったですね」
しかし、中学2年の夏、母親がいない自宅で、その時は突然やってきた。里帆さんが現場の部屋を案内してくれた。
(里帆さん)「実際に父から性的虐待を受けた場所ですね。ここで実際に性行為がある日には父がここに(布団の上に)座っていて。『こっちにきて』と手招きをしてここに来るように言われて。来てから…という感じでした」
その後も決まって母親がいない時間を狙われたという。尊敬していた父親の姿はもうどこにもなかった。唯一の救いは幼いころから打ち込んできた音楽だった。まさに被害を受けていた高校2年のときは吹奏楽部の演奏会でピアノを弾き、翌年には大勢の前でダンスを披露するなど明るく振る舞っていた。吹奏楽部で一緒だった友人は、当時の里帆さんについてこう話す。
(友人)「ムードメーカーというか、自分の意見をはっきりと『こうじゃないか』と言っていく感じでした。悩みを見せないというか『悩んでなさそうだね』と言われるようなキャラクターだったので、(性的暴行を受けていたとは)イメージが湧かなかった」
繰り返される性的暴行に、里帆さんのメンタルは限界に近づいていた。
(里帆さん)「私が悲しんで苦しくても、頑張って自分の中にとどめれば、他の親族や家族は日常生活を送れると思っていました。きょうたまたま死ななかっただけで、死なない日を延ばしていた感じでした。生きようとしているよりかは、死ぬ日を少しずつ延ばしてきょうまで来たっていう感じで」
しかし、高校2年の11月、ついに里帆さんが助けを求める。保健室の先生に打ち明け、児童相談所に一時保護された。大門容疑者は家を出て行くことになり性的暴行はなくなったが、別居先は家の真裏のアパートだった。里帆さんは逃げるように東京の大学へと進学した。
里帆さんの過去を受け入れた夫
そして3年前、夫の佳樹さんと出会う。佳樹さんは里帆さんの過去を、すべてを受け入れてくれた。
(佳樹さん)「つらかっただろうなと。本気で力を全力で貸してくれる人は少ないし、同情は得られたとしても『巻き込まないでね』ということが一般的な人の価値観だと思うし。本当に居場所がないんだろうなと。一も二もなく『助けるよ。俺が力になるよ』って」
こうして交際が開始。それでも里帆さんが不安定になることも少なくなかったという。2022年11月、突然、里帆さんが自殺を図ったのだ。
(佳樹さん)「ここのソファで寝ていたようですね。(睡眠薬を)トイレで飲んで、その後に意識が朦朧としてここに寝転がって」
今も円滑な社会生活を送ることはできていない。ただ、過去を断ち切るためにも大門容疑者に罪を認めてもらい、償ってもらうことを2人で決めた。
当時を振り返る父親「妊娠したら堕ろすとか」

里帆さんは2022年5月、母親と佳樹さんに同席してもらい、大門容疑者がどう思っているのか、初めて尋ねることにした。そのとき里帆さんが録音した音声記録が残っている。
【音声記録より】 (里帆さん)「児相に行ってから今までちゃんと話を聞いたことがなかったから、どう思っているのかなって」 (大門容疑者)「私は何を言えばいいわけ」
話そうとしない大門容疑者。しかし、佳樹さんが席を外すと、少しずつ口を開き始めた。
(里帆さん)「私を性的対象と見始めたのはいつなんだろう?いつなんですか?」 (大門容疑者)「中学生くらいとか、そんな時じゃないのかな」 (里帆さん)「快楽のため?性的嗜好のため?」 (大門容疑者)「理由とかははっきり…これだという理由はない…わからない」 (里帆さん)「わからないじゃなくて」 (大門容疑者)「言葉にして出せない」 (里帆さん)「私が傷ついているとか、そういうこともまったく考えなかったということやろ?」 (大門容疑者)「そういうことをやるってことは…私がバカなんだろうな。だから考えることができなかったんだろうな。自分が愚かだってこと」 (里帆さん)「避妊していないときもあって、私があなたの子どもを妊娠したらどうするつもりだったの?」 (大門容疑者)「もしそういったことになっていたら堕ろすとかそういったことになっていたと思う」

性的暴行の事実を認めた。大門容疑者が書き記した反省文も残されている。
【大門容疑者が書いた反省文より】 『自らの欲望を優先させた結果、娘を用いて自らの性欲を満たしました。大変申し訳ございませんでした』
里帆さんが望んで得た父の言葉だった。しかし同時に心は大きく揺れ動いた。
(里帆さん)「まったく知らない人からのレイプとか、もちろん辛いと思いますが、それだったら家族も親族も総出でその人を恨めるし、私も恨み切れる。だけど、どうしても血がつながっている実の親だから、憎み…一生憎み切れないと思います、今はそう思います」
それでも去年3月、里帆さんは葛藤しながらも大門容疑者に対する告訴状を警察に提出した。
(里帆さん)「まずはやっとここまできたかなと。(被害は)終わっているんですけど、自分の中で終わったわけではないので。父親が処罰されるよう問いたい、責任を取ってもらいたい」
「家族を売って気持ちいいの?」父を罪に問うことを受け入れない親族も

しかし、罪に問うことをほかの親族全員が受け入れたわけではなかった。それは被害を伝えたときのことだった。
(里帆さん)「ショックを受けるかもしれないんだけど、中学2年から高校2年の間まで、実の親なんだけどレイプされていた」 (親族)「そうかい…。頼む、お金ならいくらでもあるから」 (里帆さん)「お金じゃないよ」 (親族)「家族を売って気持ちいいの?」 (里帆さん)「気持ちよくはないよ」 (親族)「私それでここにおられんくなるよね。この家も全部売ってしまうよ。あんた、今もやっているなら別だけど、それでいいわけ?」 (佳樹さん)「ご自身の話だけですか?彼女のことを心配してくださいよ」 (親族)「しとる。(大門容疑者は)きちっとしている子だったからね、絶対にそんなこと…」 (里帆さん)「したんだって」
さらに里帆さんを幼いころから誰より可愛がってきた別の親族も激しく抵抗した。
(親族)「バカなことを考えるな」 (里帆さん)「私が訴えるのはダメなことってこと?」 (親族)「そうだよ。お前が今考えていることはダメなことだよ。裁判なんかして決してよいことじゃないだろ」 (里帆さん)「なんで?」 (親族)「なんでって、親子で裁判なんかしてよいことあるわけない。いろいろな考え方があるやろ、もうちょっと」
家族の崩壊。里帆さんが長抱えていた不安が現実のものとなった。
では里帆さんの母親はこれまでの出来事をどう捉えているのか。今回、取材に応じた。夫とはすでに離婚しているが、里帆さんの一番近くにいながら気付かなかったのか尋ねた。
(里帆さんの母親)「兆候があったのかと言われたら…そういうふうに見ていないからわからないというのが本当です。家庭内って一番安心する場所じゃないですか?その中で疑うような生活ってしないですよね」
夫と娘の間に起きたことを母はどう思っているのか。
(里帆さんの母親)「一番大事でしょう、娘って、子どもって。申し訳ないって…。あの子の人生こんな形にしてしまって。なんて自分が愚かなんだろうとしか思わないですよ」
記者の直接取材に父親は
大門容疑者はなぜ娘への虐待を繰り返したのか。記者の電話取材に応じなかったことから、去年6月、佳樹さんの協力を得て富山県内で話を聞いた。しかし、取材班が部屋に入ると、大門容疑者が席を立つ。
(佳樹さん)「お帰りになるんだったらいいですけど、私は二度とあなたとお話しすることはないですよ?いいですか?」 (大門容疑者)「帰りますよ?」 (佳樹さん)「だったらあなたと私は二度と話すことはない」
大門容疑者の行動に、佳樹さんの感情が爆発する。
(佳樹さん)「あなたそれでいいんだね?自分のやったこと、自分でけじめを取らずに話もせずに逃げ出して」
大門容疑者は足早に立ち去ろうとするが、取材班もあとを追う。
(大門容疑者)「告訴状でも出せばいいでしょう」 (佳樹さん)「そうなんだ、自分の罪を認めるんだ」 (大門容疑者)「(告訴状を)出しなさい」 (記者)「里帆さんに対して中学2年から高校2年までやったことは事実ですか?」 (大門容疑者)「関係ありませんよ」 (記者)「ありますよ」 (大門容疑者)「なんで私…あなたと私どういう関係ですか?」 (記者)「里帆さんが声を上げているんですよ、被害にあったということを」
取材に応じることはなく車で去っていった。
父親逮捕を受けて「確実に起訴してほしい、それが望みです」

そして今年3月6日、大門容疑者は逮捕された。一報を受けた里帆さんは今、何を思うのか。
(里帆さん)「達成感と、あとはやはり家族なので、家族に実際影響があるかなとかそういった感情がいろいろ湧いてきて。覚悟はしているし、実際自分でも今は認めているんですけど、(一報の)直後はそういった感情もあって、いろいろぐちゃぐちゃになってしまいました。ここまで来たからには、ここで不起訴になってしまうと…『やっぱり声を上げてもダメなんだ』というふうに世間が思ってほしくない。確実に起訴してほしい、それが望みです」
警察によると、大門容疑者は調べに対して黙秘しているという。
◎内閣府が開設している性犯罪・性暴力に関する相談窓口(24時間受け付け) 『性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター』の電話番号:#8891

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