2022年4月、愛知県東浦町の畑地で全裸の女性遺体が見つかった事件で、名古屋地検はいずれも住所不定、無職の天池由佳理(38)と山下克己(56)の両被告を殺人や死体遺棄などの罪で起訴した。遺体の女性は天池の知人で、同県稲沢市の介護助手・門田典子さん=発見時(40)=と確認された。
「被害者の身許が分かって地元は仰天しました。門田さんは2019年2月に発覚した傷害致死と死体遺棄事件の被告人の1人で、同居していた当時31歳のデリヘル嬢に暴行を加えて死に至らしめ、主犯格の女に命じられて死体遺棄を手伝うなどしたとして起訴された。
しかし、検察が事件当日に外傷性脳障害を引き起こすような暴行があったことを立証するのに失敗し、傷害致死については無罪、死体遺棄などの罪で有罪となって、懲役2年、執行猶予4年の判決を言い渡されて釈放されたのです」(名古屋地裁詰め記者)
事件後は実家のある稲沢市に戻り、高齢の父親と2人暮らししていたが、かねてから知り合いだった天池に言いがかりをつけられて事件に巻き込まれたという構図だ。天池も過去に地元を騒がせる事件を起こしていた。
「慰謝料を取りたいから手伝ってくれない?」
「天池は岐阜県高山市の特別支援学校高等部を卒業後、就職した知的障害者施設を3カ月で辞めてしまい、名古屋市内の風俗店や援助交際で金を稼ぐ住所不定の女になっていた。しかもドSで、ネットに『いじめられたい人募集』と書き込み、M客ばかりを相手にしていた。
そんな天池を路上で見かけ、声をかけたのが13年前の事件の被害者となる当時66歳の男性だった。雨の日の深夜、援交客に待ちぼうけを食らった天池がパチンコ店の前に立っていたので、『明日の昼までなら家にいてもいいよ』と自宅に誘った」(捜査関係者)
その際、男性は寝ぼけているフリをして天池の胸などを触った。途中で天池に気付かれたので、それ以上の行為はしなかったが、天池からすれば、タダで自分の体に触るなんて、とんでもないことだったのだ。
「あのジジイ、許せん!」
腹を立てた天池は男性から慰謝料を取ろうと考えたが、男性は「やってない」の一点張りだった。
そんなとき、新たに知り合ったのが共犯者の男=当時(29)=だった。援交の客待ち中に声をかけられ、意気投合。男は天池と車で寝泊まりして小遣いをもらうという生活を始めてから、会社も辞めてしまった。
「私の体に触って金を払わないジジイがいるんだ。慰謝料を取りたいから手伝ってくれない?」
男は即了承。援交仲間の女=当時(21)=にも話すと、「分け前が欲しい」と言って一緒に付いてきた。
包丁を腹に投げつけ「ざまあみろ!」
2010年9月30日、3人は未明に男性宅へ押しかけた。
「ジイさん、前に泊まりに行ったとき、私の体に触ったでしょう」
それでも男性は頑として認めようとせず、「好きなようにせえ」と開き直った。
「もうやっちゃっていいよね…、私は血を見たら止まらなくなるよ」
「おう、やれやれー」
2人は天池の本性を知らず、軽口を叩いてけしかけた。すると、天池は台所に包丁を取りに行き、2本の包丁を握って刃の部分を男性の頭に何度もガンガンと振り下ろしたのだ。
男性は血まみれになって、「ごめん、触った。謝ります」とすがりついてきたが、天池は「もう遅いんだよ。服を着ろ。ここじゃ誰かに通報される」と言って、車に乗せて連れ出した。
闇金で借金させようとしたが、業者と連絡がつかなかった。そこで男性からキャッシュカードの暗証番号を聞き出し、コンビニのATMで引き出そうとしたが、数百円しか入っていないことが分かって激怒した。
「てめー、金もないくせに私の体を触ったのか!」
天池の怒りはピークに達し、男性の顔を刃物で切り裂いたり、煙草の火を押し付けたり、「寝るな!」と言ってライターの火で腕などをあぶったりした。男性が「小便がしたい」と懇願すると、紙コップにさせたが、「次からはガマンしろ」と言って、ビニールテープで陰部をグルグル巻きにした。
「こいつと女子中学生をセックスさせて、裸の写真を撮ろうか?」
天池は援交仲間の女子中学生に電話。しかし、連絡がつかず、それも叶わなかった。夜になっても闇金と連絡が取れず、だんだんと男性が邪魔になってきた。このまま死なれても困る。男性を愛知県阿久比町の路上で下ろし、最後に天池がトドメとばかりに包丁を腹に投げつけた。
「ざまあみろ!」
その帰り道、「もしかしたらジジイは死ぬかもしれない…」と動揺していた共犯者の男は事故を起こし、警察に呼ばれることになった。車内に残っていた血痕の理由を追及されて犯行を自供。男性は通行人に発見され、一命を取り留めた。
調べに対し、天池は「どうしてもごめんなさいという気分になれない。殺してやればよかった。ハハハ…という気分」と供述した。
「天池は中度知的障害と認定されており、愛知県から療育手帳を交付されていた。公判ではそれを理由に執行猶予を求めたが、懲役4年6カ月の実刑判決を言い渡された。天池には20歳のときに出産した長女がいますが、岐阜県の実家に預けられている。服役後には結婚して長男と次男をもうけましたが、そんな状況なのに2019年には援交トラブルから恐喝事件を起こし、新たに懲役1年を言い渡された。
夫とは離婚することになり、子供たちは児童養護施設に預けられ、また住所不定の無職となって、売春を繰り返すようになった。その買春客として知り合ったのが山下克己で、山下も前科6犯の性犯罪常習者なのです」(地元記者)
女子高生2人を脅迫・監禁して強姦
山下が直近の2013年10月に起こした事件はこんな事件だった。
被害者は就職が決まり、卒業を待つばかりだった2人の女子高生。若気の至りか、家出を決行し、出会い系アプリで知り合った男の家を泊まり歩いていた。
《無料で宿泊場所を提供してくれる人募集中。ただし、エッチはなし。手を出したら訴えるからね》
このメッセージに《その条件でOKです》と言って、返信してきたのが山下である。2人にはイケメン写真を送り、会うことを了承させると、直前になって《仕事の都合でいけなくなったので、代わりに知人に迎えに行かせます》というメールを送った。
山下は“知人”として接触し、2人は不審に思いながらも、泊まる場所欲しさから山下の車に乗った。途中で山下から差し出されたジュースを飲んだところ、猛烈な睡魔に襲われて眠ってしまった。
数時間後に起きたとき、自分たちが持っていた携帯電話がないことに気付き、山下に尋ねると「着信音がうるさいから、預かっている」などと言われた。
文句を言うと、態度を豹変させて怒鳴りつけ、懐から拳銃のようなものを取り出した。それはオモチャのライターだったが、本物など見たこともない2人は、山下の威圧的な言動だけで、本物と思い込んだ。
「お前ら、服を脱いで裸になれ。そこに正座しろ!」
2人が言われた通りにすると、山下は携帯でその姿を撮影。2人から名前や住所、学校名を聞き出し、生徒手帳を取り上げた。
それからは山下の言いなりだった。みだらな行為を迫られたり、当然のようにセックスも求められたが、「この子は処女だから許してやって」と1人の被害者がかばい、1人だけがセックスした。
2人は山下のアパートに連れ込まれ、「もうお前らは帰すわけにいかん。ここで生活するんだ」と言われ、絶望的な気持ちになった。2人は「少しでも待遇をよくさせよう」とこっそり話し合い、処女の被害者は山下とセックスすることを決意。処女を捧げた。
「私たち、親に捜索願を出されているかもしれない。せめて学校に行っていれば、安心すると思う。ここから通わせて。学校が終わったら、必ず帰ってくるから」
2人はすべての荷物を置いて行くという条件で、翌朝、学校の正門前まで車で送ってもらった。
その足で職員室に向かい、教師に被害を報告。学校の通報で警察が駆け付け、2人はただちに保護された。山下はわいせつ略取や強姦などの疑いで逮捕された。
「山下はこの事件が原因で、2021年4月まで服役していた。天池とは2022年1月に立ちんぼスポットで有名な名古屋市中区の仲ノ町公園で知り合い、客として2回ほど買春した。天池の身の上を知った山下が『家に来いよ』と誘い、食事やトイレや風呂を提供し、2人は車上生活しながら、天池の買春客を探すという生活を始めた。門田さんに対する事件の前に起こしたのが、別の女性に対する拉致監禁レイプ事件です」(前出・地元記者)
〈 「金が作れないなら、死を選ぶしかない」頭にビニール袋をかぶせ、首をガムテープでグルグル巻きに…殺害後、畑地に全裸の遺体を埋めた被告2人の“凶行” 〉へ続く
(諸岡 宏樹)