アライグマ被害が都内で深刻…サツマイモを根こそぎ、ニワトリは殺され絶滅危惧種の捕食も

東京都内で特定外来生物のアライグマによる被害が増加している。農作物への被害金額は昨年度、過去最多の851万円となったほか、絶滅危惧種「トウキョウサンショウウオ」を捕食するなど、農業以外にも影響を及ぼす。関係者らは、被害を食い止めようと対策に腐心している。(井上勇人)

畑に電気柵設置

「心を込めて育てた作物が食い散らかされると本当に悔しい」。町田市でサツマイモなどを栽培する農業男性(54)はため息をつく。
男性は5年ほど前に、アライグマによる被害に遭った。秋から冬にかけてサツマイモが根こそぎ掘り返されているのに気づいた。飼っているニワトリも4、5羽殺された。
周囲の農家からは、「アライグマがいる」と聞いていたが、「多少の被害なら仕方ない」と考えていた。しかし、ニワトリまで被害に遭ったため、ニワトリ小屋の近くに箱わなを置いたところ、アライグマがかかった。
男性は、小屋を補強するとともに、畑に電気柵を設置した。すると、アライグマによる被害は減ったという。ただ、サツマイモ畑を荒らされる被害は続いている。「一定の効果は出ているが、広い範囲に柵を張っても被害をゼロにはできない」と頭を抱える。

アニメで人気に

環境省によると、アライグマが主人公のアニメが1970年代に放送されたのを機に、人気が高まり、国外から輸入が増えた。しかし、成長すると気性が荒くなる個体が多く、飼い主が捨てるなどした結果、野生化が進んだという。
都内では、2003年度に初めて農作物への被害が確認された。都によると、06年度に被害が急増したが、その後はいったん落ち着いた。しかし、15年度以降に再び増加し、昨年度は過去最大の851万円に上った。
捕獲数も増加傾向にある。05年度に36匹捕獲され、09年度は100匹を超えた。19年度には834匹、昨年度は1282匹になった。
都では、13年度にアライグマと、被害が多く出ているハクビシンの防除計画を策定。計画では、▽原則として生け捕り型の小型の箱わなを使う▽庭木に残る果実や放棄農作物などを適切に処理することなどを示している。
今年度からは、JA(農協)や区市町村に対し、アライグマのような中型の野生獣による農作物被害防止対策をした場合に、補助金を出す事業を開始。捕獲や処分に関する経費も半分を補助している。都の担当者は「少しでも被害を少なくするために、関係機関が行う取り組みを支援したい」と話している。

箱わなに効果

影響は農作物だけでなく、生態系にも及んでいる。里山の自然環境保護などの活動を行う団体「西多摩自然フォーラム」によると、05年から青梅市内で、環境省のレッドリストで絶滅危惧種に指定されているトウキョウサンショウウオの死骸が見つかるようになった。周辺の足跡などからアライグマに捕食されたと考えられている。あきる野市内の水辺でも、10年から被害が顕著になった。産卵のために水辺に来たトウキョウサンショウウオを捕食しているとみられる。
この水辺では06年頃、 卵嚢 が約800房あったが、10年には500房まで減少した。同団体は被害を食い止めるため、水辺を管理する都に、箱わなの設置を依頼した。
効果はあり、多くのアライグマが捕獲された。卵嚢の数は回復していき、13年には1000房を超え、現在は1200房程度で推移しているという。同団体は「今後も対策を続け、トウキョウサンショウウオを守っていきたい」としている。

効率よく捕獲を

アライグマの生態に詳しい国立研究開発法人「農業・食品産業技術総合研究機構」(農研機構、茨城県つくば市)の小坂井千夏主任研究員は「アライグマの被害を根絶するには、個人や行政が連携し、限られた予算の中で効率よく捕獲することが求められる」と指摘。また、「アライグマを野放しにすると、民家の屋根裏などにすみ着いて感染症を媒介する可能性がある」と警鐘を鳴らす。

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