ニュース裏表 峯村健司 米駆逐艦入港めぐる沖縄・石垣港でのスト決行を憂う 神経尖らせる中国、自著「習近平の『新型統一戦争』シナリオ」買い占めの謎

筆者が2月19日に出版した『台湾有事と日本の危機 習近平の「新型統一戦争」シナリオ』(PHP新書)は、発売直後に重版となった。1月の台湾総統選の結果を踏まえた緊急出版となり、幸いにも多くの方々の目に留まったようだ。
さらに発売後、珍事が起きた。
「『台湾有事と日本の危機』をあるだけ買いたい」
沖縄県内の大手書店に注文が入ったのだ。担当編集者が書店に確認したところ、同書店では在庫が残っておらず、実際には販売には至らなかった。
「同書の買い占め目的ではないか」と担当編集者は語る。同じような動きが過去にも沖縄であったからだ。同社の月刊誌『Voice』で、沖縄県内の基地問題における活動家に批判的な記事を掲載した際にも買い占めがあったそうだ。
心当たりはあった。『台湾有事と日本の危機』の第5章で、中国の習近平国家主席が昨年6月、中国と「琉球」の関係に言及した意図と、中国共産党内で議論が進められている「沖縄帰属論」について解説している。
さらに、中国側が神経をとがらせている可能性があるのは、第4章の「台湾有事に巻き込まれる日本」だろう。
台湾侵攻に出た中国人民解放軍が南西諸島に展開。これを受け、沖縄本島における住民避難などの国民保護について克明なシミュレーションを紹介している。
中国軍のミサイルによって、那覇空港に避難した住民が死傷したり、沖縄から本土に避難する住民を載せた輸送艦が攻撃を受けたりする事態を想定した。その際、南西諸島に展開している自衛隊艦が港に近づいたところ、港湾職員が「戦争には加担しない」として業務を拒否したことで、着岸ができない事態も盛り込んだ。
こうしたシナリオは早速、現実のものとなった。
今月11日、米海軍イージス駆逐艦「ラファエル・ペラルタ」が沖縄県石垣市の石垣港に入港したことを受け、全日本港湾労働組合(全港湾)沖縄地方本部は、「労働者と職場の安全確保」を掲げてストライキを実施した。港湾事業者3社の労働者約50人が参加し、港での荷物の積み下ろしができなくなった。13日に同艦が出港後、ストは解除されたが、市内のスーパーでは一部の生鮮食料品などが欠品する事態となった。
スト権は憲法28条で保障された権利であることは言うまでもない。だが、その目的は「有利な労働条件を確保することを目指す」と定められている。今回のように、特定の政治目的(=全港湾沖縄地方本部の幹部は11日の記者会見で、『われわれの職場が軍事利用されるのではないかと懸念している』と語った)のために行使することには疑問を抱かざるを得ない。
何よりも、海上保安庁による尖閣諸島周辺の警備の拠点となる石垣市において、市民生活を「人質」に取るようなストが実施された前例をつくったことは深刻だと筆者は考える。
今回の状況を見た中国側は台湾併合の際、米軍や自衛隊の艦艇が沖縄の各港への着岸を妨害しようとするだろう。インフラ事業者のように、港湾労働者も有事の際に国民保護業務を行う指定事業者に定めることを含めた対策が急務といえよう。 (キヤノングローバル戦略研究所主任研究員 峯村健司)

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