「県知事に裏金の質問はNG」と要請、地元メディアが反発…山梨県による「異例の忖度」騒動の顛末は?

ここ1か月、私が興味を持って追いかけていたニュースがあった。第一報がこちら。
『山梨県、知事への裏金質問封じ 応じない1社の取材を拒否』(共同通信2月21日)
《山梨県が、報道各社による長崎幸太郎知事への個別インタビュー取材を巡り、自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件に関連する質問を扱わないよう求めたことが21日分かった。》
なんと、要請に応じなかった1社が取材を拒否されたという。山梨県政記者クラブは長崎氏宛てに抗議文を提出し「意に沿わない報道に圧力をかけた」と批判。
「拒否された1社」とは
この記事では山梨県の要請も大問題だが「1社以外は県の要請どおりに裏金の質問をしなかったのか?」という疑問も浮かぶ。ちなみに取材拒否された1社とはテレビ山梨(UTY)だった。地元の民放テレビ局でTBS系列。
テレビ山梨は自局ニュースで、
「収支報告書の不記載に関する質問はしないでほしい」 「この質問をやめてもらわなければ知事のインタビューをお受けすることは難しくなる」
と2月7日に県の担当者から告げられたとし、
《テレビ山梨は報道機関としての自主独立性の確保と県民の関心に応える責務から、県側の要請を受け入れることはできないと回答しました。そのため今回、知事にインタビューを受けていただくことはできませんでした。》
と報じた(2月21日)。
この件を受けて新聞労連は『地方自治体で相次ぐ「質問封じ」に抗議する』(2月26日)と声明を出した。山梨県だけでなく徳島市でも同様の事案があるとして、
《山梨県と徳島市の事案に共通するのは、首長の取材に対する消極的な姿勢です。》
地方自治体に忖度がまん延
山梨、徳島とも首長による直接の取材拒否の指示は確認されていないが、公人としての説明責任に背を向ける首長の姿勢が広報担当者に伝染してトップの顔色を窺う忖度が自治体にまん延していると問題視している。
代表的な例として、
《石川県の馳浩知事は、地元民放局が制作したドキュメンタリー映画の内容に対する不満を理由に23年3月以降、定例記者会見を開催せず、自身の都合で行う随時開催に切り替えています。》
石川県の馳浩知事に言及していた。権力者が堂々と会見拒否している異常事態が石川県で続いている。
ここで気になるのは地元紙の対応だ。石川県の北國新聞は馳知事の態度に声を上げていない。“地元の権力者同士”として仲睦まじく、他メディアの状況は気にならないようなのだ。
では山梨県の地元紙・山梨日日新聞はどうなのか。県からの要請を受け入れたのか? 調べてみたら2月17日の一面トップで知事のインタビューを載せていた。次の一節に注目してほしい。
《山梨日日新聞は裏金などの認識などについて聞いているが、長崎知事は「質問自体がナンセンス」と述べ、明確な回答をしていない。》
あ、ちゃんと裏金のことを聞いていた。では新聞の次はテレビだ。取材拒否されたというテレビ山梨のほかに県内にもう1局ある。山梨放送(YBS)だ。日テレ系列で山梨日日新聞のグループ企業でもある。
山梨放送の報道部に聞いてみた
私は山梨放送でラジオ番組をやっているので、スタッフを通じて報道部記者に取材を申し入れた。記者から30分ほど聞き取りした内容をまとめてみる。
・結論から言うと山梨放送も知事インタビューで裏金のことを聞いて放送していました。
・県から裏金について質問するなという件は、ニュアンスとしては「要請」と言うより「相談」という感じだった。でも相談だろうが何だろうが県側がメディアの質問に立ち入るのはダメ。ありえない。
・何を言われようが質問するつもりでした。県側に言われたから聞かないというほうがおかしい。信じられない。
以上のように山梨放送も裏金のことを知事に質問して報道していた。ではなぜテレビ山梨だけが取材拒否されたのだろう?
県側の言い分は?
気になるのは毎日新聞の山梨版にこんな一節があったことだ。県側の言い分として、
「県が拒んだのではなく、インタビューを辞退したと認識している」
んんん? なんだかややこしくなってきた。もしかしてテレビ山梨VS長崎幸太郎知事には何か事情があるのだろうか?
こればかりは長崎知事とテレビ山梨に聞いてみないと両者の感情はわからない。しかし万一、知事が個人的な感情で特定のメディアに厳しいならまるで石川県の馳浩知事である。知事の意図ではなく県広報が質問削除を要請していたとしても罪は重い。今回の最大の論点はやはり「山梨県広報の知事への忖度」なのである。
では騒動の直近の動きを紹介する。
『“質問封じ”一転謝罪 知事不記載問題 県「対応に落ち度」』(山梨日日新聞3月13日)
山梨県は「規制は到底あり得ない」と当初否定していたが12日に落ち度を認めた。しかし県は長崎幸太郎知事の責任には触れていない。今回の騒動はそもそも長崎知事が裏金問題を問われて「質問自体がナンセンス」などと言って答えてこなかった態度に原因がある。説明しないのでかえって全国に知れ渡ってしまった。マヌケな対応である。
朝日新聞の説明に脱力
さて県による質問封じ要請で、ある新聞社の記事が目に留まった。朝日新聞・山梨版の説明を最後に載せておこう。
《県側から政治資金問題について質問しないよう要請がありましたが、了承はしていません。》(2月23日)
うん、そうだろうな。
で、次。
《弊社の主要な取材目的は、就任6年目を迎える知事がどのような政策に力を入れるのかを紹介することでした。そのため政治資金問題については質問していません。》(同)
聞いてないんかーい。
朝日はこの問題については今後も記者会見で問いただすと締めていた。しかし、いろいろ御託を並べていたが今回のインタビューで裏金問題を聞かなかったことは事実だ。県の「要請」をきちんと受け入れた新聞がここにあったのである。
(プチ鹿島)

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