世界的に感染が拡大する「はしか(麻疹)」が、日本でも感染報告が相次いでいる。今月に入り、国際便の搭乗者やミュージカルの観客など日本国内でも複数の感染者が報告された。年齢を問わず重症化や死に至る合併症をもたらすリスクのほか、他人にうつす恐れもあり、油断はできない。
ホリプロと日生劇場は14日、7日開催のブロードウェイミュージカル『カム フロム アウェイ』の公演で、後日、麻疹と診断された観客がいたことを東京都から連絡を受けたと発表した。
武見敬三厚労相は8日、先月24日にアラブ首長国連邦(UAE)から関西空港に到着した航空機に搭乗していた5人にはしかの感染が確認されたと公表。岐阜県で1人、愛知県で2人、大阪府で2人の感染者を確認した。
世界保健機関(WHO)によると、2023年は前年比8割増の30万人以上のはしかの感染が報告された。過去にはしかの排除を宣言していた国からも報告が上がった。
日本も15年に、はしかの排除状態にあるとWHOに認定された。19年には排除後最多の744人となったが、コロナ禍の20~22年は10人以下に減少。23年は28人に増加した。
拡大の原因の一つとされるのはワクチン接種率の低下だ。流行を防ぐには、人口の95%がワクチンを2回接種することが望ましいとされる。
現在は1歳と小学校入学前1年間の計2回の定期接種が行われている。だが、2回接種を終えた割合は20年度以降、減少し、22年度は92・4%だった。厚労省によると、00年4月1日以前に生まれた人は2回の定期接種を受ける機会がなく、接種回数が不足している可能性がある。
東北大学災害科学国際研究所の児玉栄一教授(災害感染症学)は「1972年以前に生まれた世代は、感染して免疫を獲得した人が多いが、なかには未感染やワクチンの未接種のケースもある。また、72~2000年3月に生まれた世代は1回接種のみの可能性もある」と解説する。
合併症のリスクも侮れない。厚労省によると、10万人に1人程度と頻度は高くないが、特に学童期に亜急性硬化性全脳炎(SSPE)を発症するリスクもあるとされる。
「SSPEは、どの世代でも起こるリスクがある。感染力を落としながらも脳に進入して強毒性を増すなど致死性も高い。自覚症状のないまま2~3年後や10年後に発症することもある。ワクチンを接種しても免疫不全の人や1回接種をしても徐々に抗体が減っている人の場合、重症化のリスクはゼロではない。妊婦が感染した場合、早産や流産などの恐れもある」と児玉氏は警鐘を鳴らす。
感染拡大を防ぐには、対策も1人1人の意識がカギだ。
児玉氏は「軽症で出歩き、人に感染させるリスクもある。発疹や発熱など疑わしい症状が出たら情報を収集し、公表されている感染者と自らの行動経路が一致していないかを把握した上で医師に告げ、正確な診断を仰ぐことが重要だ」と指摘した。