3月末に宇宙航空研究開発機構(JAXA)を退職する宇宙飛行士の若田光一さん(60)が29日、東京都内で記者会見を行った。主なやり取りは次の通り。
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--宇宙飛行士候補者に選ばれてからの32年間を一言で表現すると
「宇宙飛行士は飛行安全と与えられたミッションの成功という、2つの大きな目標に向かってきた。その中で国際宇宙ステーション(ISS)のような国際協力プロジェクトで、皆さんと力を合わせて1つの目標に向かって努力することができた。一言にはならないが、振り返ってみると、貴重な経験をさせていただいた」
--過去に和の心を大切にしたいと言っていたが、チームワークにおいてその大切さを感じた瞬間、エピソードは
「和の心というのは、私にとって、とても大切な言葉。これはわれわれの活動に限定されるようなことではなくて、社会の維持に重要だと思う。ISSでシステムを動かす人たちは、生身の人間だ。具体的なエピソードではないかもしれないが、軌道上の日々の仕事は非常に忙しく、朝始めてしまうと夕方まで話す時間がなくなってしまうことがかなりあった。仲間と常に的確なコミュニケーションを維持していくことが、想定外の万が一も含めて緊急事態になったとき、とても重要であることは明らかだと思う」
「そういう意味で、私はどんなに忙しいときでも、運動の時間などに声をかけるなど、相手を思いやる気持ちを大切にして生活してきた。(ISSの)閉鎖空間で生活をしていく際、その国の祝日だとか、誕生日だとかで祝うためのものはあまりないので、相手に自分が一番おいしいと思っているものをプレゼントするなど、コミュニケーションの機会をつくってチームワークを維持していく。特に閉鎖環境では、人と人とのつながりがとても重要と思う。それがチームとして的確な行動が取れる基礎になっていったのではないか」
--JAXAを退職するきっかけは。いつ決断したのか
「1年前に宇宙から帰還した際に考え始めた。スパッとは決められなかった。私は石橋をたたいて渡るタイプ。新しいことに挑戦したいがリスクを最小化したいという気持ちもあり、いろんなことで悩んだ上で今回の決断に至った。その時々で、これが最後だと思って軌道上で仕事してきたので悔いはない。結果としてさまざまな経験をさせていただき、私が今できることは、大きな挑戦は何かと、総合的に考えた」
--日本人初の業績を数多く達成できたのは
「いろんな仕事をさせていただいた。ラッキーだったと思う。これまで何度かノーベル賞を受賞された方とお話をしたが、その中で〝運〟が非常に重要だったと聞いたことがあった。私も多くの人に支えられ、本当に幸運だった」
--宇宙の最大の魅力とは何か
「皆のもので、皆に限りない夢、そして希望を与えてくれる空間であるというところだと思う。物理学的にも、われわれが把握している物質は5%にすぎない。ISSでの活動も発見の毎日で、新しいことに挑戦し、わからなかったことを既知のものにしていく喜びがある。宇宙は、わからないことが多すぎる存在なので、多くの人たちに限りない夢を与えてくれる」