発生から3カ月が過ぎた能登半島地震。石川県輪島市の沿岸部は海底の隆起によって岩肌が現れ、変わり果てた姿になった。海が浅くなったことで漁船が出せず、伝統の海女漁が再開できない。海岸の被害調査では、サザエやアワビなど貝の死骸が大量に見つかるなど海の再生への道のりは遠い。海女の担い手不足に拍車がかかる可能性もあり、二重の苦しみが続く。
担い手不足に拍車
輪島市の海女漁は「輪島の海女漁の技術」として平成30年に国の重要無形民俗文化財に指定。市によると、最盛期の7~9月にはアワビやサザエなどが取れ、昨年の市全体の漁獲量はアワビが約1・3トン、サザエが約113・3トンだった。
ただ、漁獲量減少に伴う収入減と高齢化などから海女の担い手は少なくなっており、25年に215人いた海女は昨年3月には約2割減の170人に。地震の影響で海女漁ができない期間が延びると担い手減少に拍車がかかる恐れがあり、伝統の継承も危ぶまれる。
さらに、地震による海底の変動などが漁獲量に影響を与える可能性もある。同市輪島崎町の海岸で今年3月下旬、地元の海女や漁師ら約15人が岩場に付着した貝などの死骸を集めて被害状況を調べた。3日間で計約1740平方メートルを調べ、サザエ2189匹、トコブシ196匹、アワビ142匹などを採取した。
見つかった死骸の大半は、殻長が漁獲可能な10センチまで成長していない小さいサイズだった。また、将来の採取に備えてアワビの稚貝を放流しているが、調査では放流したアワビの死骸も見つかっており、海女漁が再開しても数年先まで影響が出ることも予想される。
調査に参加した海女歴20年以上の浜崎真理子さん(44)は「思っていた以上に多く死んでいる。きれいな海でおいしい貝がたくさん取れていたのに、ショックだ」と悔しさをにじませた。
「海の育む力信じ」
被害調査は、地震で漁業ができなくなった海女や漁師らが収入を得られるよう、国が用意した支援策の一環。今後も海底が隆起した同市光浦町などの海岸を調べる予定という。
水産庁のまとめ(先月21日現在)によると、石川県内69漁港のうち60漁港が被災。水揚げができない「使用不可」は20漁港、一部できる「一部使用可」は28漁港だった。輪島市など県西部を中心に、海底が隆起している漁港が多数確認されている。
国からの委託で被害調査に参加した環境調査会社「海洋プランニング」の調査員、石川竜子さん(47)は、死骸の多さは場所によって差異があるとし、「死骸の少ない海岸は地震で一定数の貝が海に逃げた可能性もある」と分析。「海中も調査し、生存した貝が見つかれば漁を再開できるのではないか。海の育む力を信じたい」と期待を込めた。(喜田あゆみ)