悪質ホストの社会問題化で、東京・歌舞伎町のホストクラブは、先月から「売掛金(=ツケ)」を廃止した。ただ、それは表向きで問題はむしろ水面下へと潜ってしまった。
例えば「売掛金」をなくしても、実際にはホストが会計を立て替えて、客がホストに借金を負う形にするケースがみられている。「立て替え」とはホストも店から「バンス(借金)」をしている状態だ。売掛金と同様、客が期日通りに払えなければ、バンスはホストの給料から引かれていく。
さらに、この立て替えを理由に、ホストに店をやめることを許さない悪質なホストクラブも増え始めているという。つい先日までそんな悪質店に勤務していたという元ホストの男性が語った。
「立て替えた売掛金以外にも、所得税、広告費、高額な社員旅行の積立金などあらゆる名目で給料明細から金額が引かれました。社員旅行も支払った額には見合わない質素さで、バンスは入金が遅れると、利子でその額が雪だるま式に増えていった。特に納得いかなかったのは『広告費』です。看板やWebメディアなどに自分を露出してもらうためと言われましたが、引かれた金額の割に店側に売り出してもらった記憶もありません」
そして、それ以上に理不尽なことも起きたという。
「ふとしたことから店の先輩とトラブルになり、殴る蹴るの暴行を受けたんです。ケガの後遺症はいまもありますが、結局、オーナーを交えた話し合いで被害届は出さないように説得され、示談にさせられました。暴力のことは口外しないよう誓約書も書かされて」
示談金はたったの30万円。ケガの療養中はまともに働くこともできず、バンスだけがどんどん給料から引かれた。ついに男性は店を〝飛ぶ〟(=黙ってやめる)ことを決意したという。
「ホストクラブ側が売掛金の廃止方針を発表した昨年末以降、歌舞伎町ではやめるホストが増えました。ホストクラブは人手不足となり、店をやめることが厳しくなった。それまでは身分証のみでも働けたのが、店には本籍が記載されている住民票の提出が求められるようになりました。もし、飛ぼうものなら、バンスを実家にまで取り立てるつもりだったのかもしれません」
この男性は住民票を提出せず、そのまま店を飛んだ。悪質ホストクラブとは女性客にとってだけではなく、働くホストにとっても害毒なのだ。こうした被害ホストの救済措置や悪質店への取り締まりも早急に必要だろう。
■カワノアユミ 20代を歌舞伎町と海外夜遊びで過ごした元底辺キャバ嬢。現在は国内外の夜の街でニッチなネタから盛り場の変遷までを幅広く取材。著書に、アジア5カ国の日本人キャバクラで9カ月間潜入就職した『底辺キャバ嬢、アジアでナンバー1になる』(イーストプレス)。X(旧Twitter):https://x.com/ayumikawano/