東京電力福島第1原発処理水の放出を巡り、「海水からトリチウム検出」を見出しに取った一部報道に対し疑問の声が広がっている。東電は7日に福島第1原発周辺の海水から1リットル当たり13ベクレルの放射性物質トリチウムを検出したが、世界保健機関(WHO)が定める1リットル当たり1万ベクレルの飲料水基準をはるかに下回る量となっているからだ。「検出下限値未満」ではなく、トリチウムが検出されたのは事実。だが、「基準を下回る」の文言を入れず不安をあおりかねないタイトルに対し、SNSでは「海水から塩分を検出したレベル」など報道に対して苦言を呈すコメントが相次いでいる。
「13ベクレルは飲料水として問題がない基準もはるかに下回っている。安全性に問題がないという客観的事実を報じてほしい。検出だけを報じるのは報道ではないと思う」
自民党の細野豪志元環境相は8日、産経新聞の取材にこう語った。
福島第1原発で発生する汚染水は多核種除去設備(ALPS)で浄化処理され、大半の放射性物質を取り除かれるが、トリチウムは除去できない。このトリチウム水は海水で100倍以上に希釈され、国が定めた排水基準の40分の1(1リットル当たり1500ベクレル)未満に濃度を薄めた後、海に流される。
そもそもトリチウムは自然界に広く存在し、体内にも微量ながら含まれている。国外の原発施設周辺で人体や環境に与える影響は確認されていない。一部報道の見出しを巡っては、X(旧ツイッター)上で風評被害を懸念する声もある。
電力、エネルギー、環境問題について情報発信するアカウント「分電でんこFC」は8日、Xで「だから何といいたいようなタイトルです。福島が危険であるといいたいのでしょうか。だとしたらこの記事は風評加害です」と指摘した。
自民党の小野田紀美参院議員も8日にXで「タイトルが本当に風評加害で悪質なんよ…」と投稿し、自民党の渡辺康平福島県議も8日、Xで「海水に塩が混ざっていたレベルの報道ですよ」と書き込んだ。
原発事故に伴う風評被害の実態を取材する福島在住のジャーナリスト、林智弘氏も8日にXで「『海水から塩分検出!』というのと同程度なんだが」と苦言を呈し、福島県鮫川村で農業を営む阿久津修司氏も8日にXで「海水にトリチウムないとでもいうのか。イチャモン付けるためだけの非常に悪質な報道です。福島県は厳重に抗議すべき」と非難した。
あるネットユーザーが生成AI(人工知能)「チャットGPT」に作成させた、記事内容に適切なタイトルは「トリチウム検出 基準下回る」だった。(奥原慎平)