原発から出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分場の選定を巡り、佐賀県玄海町が10日、文献調査の受け入れを表明した。議論の浮上から1カ月弱で進展した背景には、原発活用にかじを切った現政権の異例とも言える後押しがあった。既に文献調査が進む北海道の2町村に影響を与えるのは必至で、長年停滞した議論にも大きな弾みがつきそうだ。
「全国で議論が高まり、日本のどこかに最終処分場の適地が見つかる呼び水となれば」。10日、原発立地自治体として初めて受け入れを表明した同町の脇山伸太郎町長は、報道陣にこう語った。
調査の受け入れを求める地元商工3団体の請願が提出され、議論が表面化したのは4月15日。同26日には町議会で請願が採択され、脇山町長も「議会で採択されたことは大変重い」と述べ、熟慮した上での決断だったことをにじませた。
調査を申し入れる国側の動きも早かった。請願提出の2日後には、原子力政策を所管する経済産業省の担当者が特別委員会に出席し、処分地選定までの流れなどを説明。5月1日には同省幹部が町役場を訪れ、同7日には斎藤健経産相が脇山町長と面談した。
資源エネルギー庁の幹部は「受け入れの表明前に大臣が首長と面会するのは異例だが、裏を返せば国民的議論につなげたい強い意志の表れだ」と話す。
昨年11月には、最終処分の事業主体を担う国の認可法人、原子力発電環境整備機構(NUMO)が主催する地元住民向けの説明会も開かれ、担当者によれば「会場の反応は悪くなかった」という。スピード決定の背景には、水面下の折衝も奏功した可能性が高い。
令和2年に受け入れを表明し、文献調査が進む北海道寿都町と神恵内村は、かねて議論が北海道以外の他地域に広がることを望んでおり、3例目となる自治体が名乗りを上げたことで、今後の動きにも影響するのは確実とみられる。
最終処分が先行するフィンランドやスウェーデンでは、選定までに5~8つの自治体が候補地となった経緯がある。エネ庁幹部も「日本でも6~8つの候補地が望ましい」としており、議論の広がりをさらに後押ししたい考えだ。(白岩賢太)