〈 「お金ないなら、風俗どうかな?」ホストクラブで1000万の札束が…被害にあった26歳女性が語る、“資金調達”の日々と悪質ホストの手口 〉から続く
5月2日、歌舞伎町のチェーン焼肉店で、ホストがジョッキに放尿するという迷惑行為があった。これを受けて、そのホストたちが所属しているグループ、AIR GROUPがXで「お詫びとご報告」を出す事態となった。
そんな騒ぎが絶えない新宿・歌舞伎町で、悪質ホストの被害に遭った当事者や親からの相談と支援、啓発をしている青母連代表の玄秀盛さんは歌舞伎町の現状に警鐘を鳴らす。
「新年度になって、多くの若者が都心へ来ている。新しい仕事や学業の進路が正しかったのか、と無気力感、不安感や焦燥感が襲う。そんな『五月病』の心の隙間に入ってくる悪質ホストが多くいる。彼らはSNSやマッチングアプリに罠をしかけている」
青母連の相談者に話を聞く
昨年4月に、中国地方から上京してきたSさん(25)は、ホストに貸した約400万円を取り戻すためにもがいている。Sさんは、生まれ育った中国地方で介護士をしていたが、一人暮らしをして自立しようと、東京の介護施設へ転職した。
「ホストは、最初から私のお金をどう取るかを考えていたはずです。あのホストが憎くてたまりません。最後に会ったとき、『僕とのLINEのやりとりを消せ』と言われ、証拠を消したことをすごく後悔しています。女性たちには、だまされないでと言いたい」(Sさん)
Sさんは昨年5月頃、マッチングアプリで知り合った男性と連絡を取り合っていた。
3回目のデートでホストクラブへ
「男性から『接客業をしています。(あなたの)感じがいいですね』とメッセージが来たんです」(Sさん)
何度かアプリ内でやりとりしていると男から「実は夜職なんだけど偏見はありますか?」ときたという。「ないわけではない」とSさんは返信した。
そして、GWにご飯へ一緒に行ったときに「ホストなんだ」と言われたという。
5月末、3回目のデートのとき、ホストから「付き合いたい。クラブの代表に紹介したいから今夜クラブに来て欲しい。支払いは1万円でいいから。半分は僕が出す」と言われ、ホストクラブへ初めて足を運んだ。
「その日は、会計が1万円で5000円払って終わりました」(Sさん)
その日の夜中、ホストからお礼の電話でこう言われた。
「ある客から『次のイベントの時に、500万入れるから、同棲をしてほしい』と言われている。Sと一緒にいたいから、断りたい。500万は諦めようと思う」
夜の遊びに慣れていない女性に、一度目の飲食代を少額にして警戒感を解き、次に高額な金額をちらつかせ、女性の恋愛感情を利用して、他の客と競わせることはホストの常套手段だ。
「500万円と言われたとき、自分の貯金を言ってしまった。うまく聞かれたと思います。地元で働いていたときにコツコツと貯めた定期預金などが200万円近くあったんです。バカ正直に言ってしまいました。店に来てほしいのではなくて、あくまでも個人的に貸してほしいと言われていました。足りない金額は、『消費者金融で借りればいい。一緒に行こう』ともホストに言われました」(Sさん)
コンビニATMで現金をかき集める
6月初旬のある日、Sさんは歌舞伎町のコンビニATMで地元銀行に貯金していた口座から50万円をおろしてホストに渡した。翌日、ホストが教えてきた新宿・歌舞伎町にある消費者金融が複数社入ったビルへ向かった。その日ホストから「一緒におろしにいくから」と歌舞伎町の靖国通りで待ち合わせて、一緒にATMに向かった。
1社目で与信満額の50万円を契約して、階下の別の消費者金融、また階下とぐるぐる廻り、合計4社、200万円用意できるようになった。
18時9分に50万円、18時10分に50万円、18時11分に50万円、18時12分に50万円を引き出し、そのまますべてホストに渡した。そして、「ありがとう、明日定期預金もおろしてほしい」と言ってホストは店へ出勤していった。Sさんは、返済の恐怖と彼を信じるという複雑な心境だったという。
また翌日、Sさんは、定期預金していた地元銀行の東京支店に1人で向かった。
「満額はおろせないと思う」とホストにLINEで連絡すると「整形代って言えばいいから」とアドバイスがあった。結局2行から、139万円を引き出した。
おろしたことを彼に連絡すると「今、会合で銀座にいるから近くに来て」と言われ、銀座の路上で139万円を渡した。Sさんは、「あくまでもホスト個人にお金を貸している」という認識だった。
Sさんもお金を借りるきっかけになったイベントに呼ばれていた。この日も銀行で40万円をおろす。
お金を借りるきっかけにされたイベント
ホストクラブのイベントは、通常営業と違い、担当ホストのために入れ替わり立ち替わり推し客がくる。Sさんが座ったのは、30分程度だったという。
「座ると、大きな箱に入ったお酒が用意されていました。イベントだから飾りで置いてあるんだと思いました。ホストには、『顔を立ててくれてありがとう』と言われました」(Sさん)
彼女が個人的に貸した約400万円の意味に気づいたときは全てが遅かった。貸したお金がこれで消えたということを理解した。
「店で使ったとかではなく個人間での貸し借りの話です」と送っても無視をされ、「もう別れたいって事だよね」と言ってくるだけだった。
なかなか関係を切ることができなかった
Sさんは言う。
「だれにも相談できませんでした。結局ホストに相談するしかないんです。被害を被っているのに、頼るのが彼しかいない。ホストも信頼関係が続いているように振る舞うんです。ホストは、『返せる時に返したいから、その方法を相談したい』とも言ってきました。彼と切れると約400万円も失うことになると思っていました」
7月の下旬には店に行き、61万円の支払いをしている。
「なかなか関係を切ることができませんでした。会い続ければ、お金を返してもらえる可能性があると思うんです。だから店に行かないと不安でした。ヘルプのホストも煽ってきますし、61万円の会計時は、クレカを『通してみていい?』と言われて、なかば強引に切られました。あのときの感情はよくわかりません」(Sさん)
ホストクラブの相談所
昨年12月5日、ホストクラブオーナーたちは業界団体を立ち上げると新宿区役所で吉住健一新宿区長と会見をした。
各グループごとに相談所を設けることも言っていた。Sさんの通っていたホストクラブも相談所を設けていた。Sさんは、その相談所へメールで相談した。相談したことは、すぐに担当ホストの耳に入り、「社長、会長にも話して。怒られたよ」と連絡がきた。
年が明けて、歌舞伎町にある喫茶店にホストから呼び出された。そこへは、社長と担当ホスト、Sさんの三者面談がセッティングされていた。テーブルには用意されていた示談書があり、約150万円で示談という内容だった。
「まったく納得できませんでした。でもこれを拒否すれば、0円かもしれない。まったく返ってこないよりは……。なによりも早く終わりにしたくて。サインをしてしまいました」(Sさん)
Sさんは、サインをしてしまった。サイン後、社長は約150万円の示談金を取り出してSさんに渡した。そして、喫茶店を後にした。残されたSさんはホストから「生活費が足りないし他の客の支払いで大変だ」と言われ続け、最後に「今までのLINEのやりとりを全部消して」と言われ、その場でLINEのやりとりを削除し、60万円を取られたという。
「札束を数えているあの顔は忘れられません。悔しいです」(Sさん)
恋愛感情を利用して女性のお金を搾取する
日に日に納得いかない思いを募らせたSさんは、「法テラスなどに連絡して弁護士とも話しましたが、納得いく回答は得られませんでした。サインしてしまったこと、記録がないことがネックになっていました。青母連に相談して、もう一度、ホスト側と交渉できそうになって、道筋ができました。この件を解決して、消費者金融への返済で肩代わりをしてくれて迷惑をかけている親にきちんと謝りたい」という。
青母連・事務局長の田中芳秀さんは。「ホストクラブ側の相談所は機能しているのか甚だ疑問でした。第三者機関が必要と青母連は言い続けています。恋愛感情を利用してきた当事者と1対1にすることは疑問しかありません。擬似恋愛の関係性のなかで完全に女性はマウントを取られ、マインドコントロール下にいます。Sさんのようなケースは多いはずです」と言う。
Sさんは現在、職場と自宅を往復しつつ、中国地方に住む親にお金を返済している。
(田中 七郎太)