列島エイリアンズ 観光公害編(3)インバウンドで〝商店街が分断〟富士山コンビニ、付け焼き刃対策では遅い 白々しく聞こえる「多文化共生」

「コンビニ越しに見える富士山」を目当てに訪日外国人が大挙した結果、観光公害を訴える声が激増。富士山の姿を遮断する目隠しシートを設置することで、文字通り「幕引き」を図ろうとした山梨県富士河口湖町。「対症療法」としては一定の効果を発揮するかもしれないが、同様の「海外SNSをきっかけとした突発型オーバーツーリズム」は、いつ何時、日本のどこで発生するか分からない。その度に現地の自治体が場当たり的に対応していたのではキリがなく、国を挙げた抜本的な対策が急務である。
例えば、訪日観光客の訪問先の偏在を是正するのもその1つだ。観光庁が調査した「都道府県別訪問率」によると、2023年10~12月期に訪日した外国人のうち、3分の1以上は東京や大阪、京都を訪問している。一方で、全国の23県は1%以下しか訪問されていない。この偏在が是正されれば、集中するエリアの観光公害は緩和され、インバウンド需要をより全国に波及させることができるのだ。
そのためには地方空港の国際化や交通機関の確保など、インフラ政策も重要だが、同時に行うべきなのが、情報発信だ。
日本政府観光局(JNTO)は、世界に発信するグローバルサイトを運営している。しかし、そのトップページで「トップ・リコメンデーション」としてお勧めされているのは「東京タワーとその周辺」「富士五湖」「渋谷と下北沢」など。これは「お勧め」ではなく、ただの「人気スポット紹介」である。注目されていない魅力あるスポットを世界に紹介していこうという気概があまり感じられない。
すでに2度、3度と日本を訪れたことがある訪日リピーターが目を引くのは、そうしたありきたりな情報ではなく、SNSでバズっている「ちょっと変わったスポット」なのだ。
「コンビニ越しに富士山が見える」スポットで言えば、筆者がGoogleのストリートビューで確認したものだけでも、静岡県と山梨県に少なくとも4箇所はあった。こうした情報をうまく発信すれば、河口湖町の富士山コンビニ周辺のオーバーツーリズムは、緩和することができたかもしれない。
観光公害が放置されるとどうなるのか。都内の某商店街で実際に起きている事態が、ある意味、いい例だろう。
その商店街では、コロナ禍以降、訪日外国人を相手に営業する複数の飲食店が盛況だ。その代償として周囲で増えたのが、落書きや器物破損、立ち小便などの迷惑行為。これらの清掃や修復の負担をめぐり、訪日外国人向けの店舗とそうでない店舗で対立が生じているという。今後も観光関連産業の成長が予想されるなか、社会分断の芽は早めに摘み取る必要がある。 =この項おわり

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