低迷する支持率回復のために岸田文雄・首相は「政治とカネ」をめぐる改革アピールに躍起になっている。その議論自体が迷走していることもさることながら、そもそもこの総理に政治改革を進める資格はない。自身が初入閣した15年以上前から、遵法精神を疑わせる資金集めを繰り返してきたからだ。その実態を総力取材で明らかにする。【前後編の前編。後編を読む】
“ガラス張り”にしたくない
終盤国会は迷走を続けている。
自民党の裏金問題の「再発防止策」として政治資金規正法の改正が議論されているが、政治資金パーティー券購入者の公開基準などをめぐって自民党と公明党の意見が折り合わず、与党の改正案づくりが難航。自民党側は政策活動費の使途公開にも消極的で、政治資金の使い途を“ガラス張り”にすることに後ろ向きなのは明らかだ。
それを野党が批判すると、自民党側は「自民党の力を削ぎたいという政局的な話がごっちゃになっている」と反論する泥仕合となっている。
自民党が改革を進められないのは、総裁である岸田首相の責任に他ならない。口では「今国会での改正に全力で取り組む」「与党間でしっかり協力してもらいたい」と言いながら、本気で再発防止に取り組む姿勢など見えない。
理由は岸田首相自身が「スネに傷」を持っているからだ。
岸田首相は2022年6月に地元・広島で約1100人を集めた「衆議院議員 岸田文雄先生 内閣総理大臣就任を祝う会」に出席している。そこで1100万円以上(会費は1人1万円)のカネを集めたと見られるが、形式上、任意団体が主催したことになっており、政治資金収支報告書に収支を記載しない“脱法パーティー”だったことが本誌・週刊ポストのスクープで明らかになった(2月2日号)。
この問題は国会で追及され、岸田首相は「地元政財界の皆さんが発起人となり開催いただいた純粋な祝賀会」と言いながら、「振込先の口座開設など様々な手続きについて、私の事務所の人間がお手伝いをした」と事務所の関与を認めた。そのため祝う会疑惑について政治資金規正法違反の虚偽記載容疑で広島地検に告発状が出された。
野党側はこの脱法パーティーの手法を「岸田方式」と命名。収支の公開基準の厳しい国会議員関係政治団体から、基準の緩いその他の政治団体に資金を移して使途公開を逃れていた茂木敏充・幹事長の「茂木方式」と併せて、法改正による規制強化を主張している。
ところが、岸田首相が指示して与党が合意した改正方針の骨子は、「茂木方式」の規制には触れているが、「岸田方式」の“脱法パーティー”の禁止は議論に上がっていない。岸田首相は自分の“脱法行為”を野放しにしておこうというのだ。
自民党裏金問題と首相の「祝う会」問題を検察に告発した上脇博之・神戸学院大学法学部教授が指摘する。
「岸田首相のように任意団体主催の形でパーティーを開き、収支を公表せずに収益の一部を寄附させる手法は政治資金規正法の抜け道です。法改正で政治資金パーティーを規制しても、この抜け道を塞がない限り裏金を集めることができる。むしろ、法改正で規制を強めれば強めるほど、政治家は抜け道の“脱法パーティー”に走り、政治とカネの不正の温床になる危険さえあります」
しかも、本誌は岸田首相が任意団体を利用した“脱法パーティー”の「常習犯」であることを新たに掴んだ。後編ではその詳細を報じる。
(後編に続く)
※週刊ポスト2024年5月31日号