安倍元首相銃撃事件も裁判員裁判の対象 負担や重圧にプロのサポートを、制度開始15年

国民から選ばれた裁判員が職業裁判官とともに刑事事件を審理する裁判員裁判が導入されてから、21日で15年を迎えた。関西でも、安倍晋三元首相銃撃事件や岸田文雄首相襲撃事件など社会的関心が高い裁判員裁判対象の公判が控える。ただこうした注目事件ほど事前の公判前整理手続きは長期化する傾向にあり、また負担や重圧にさらされることになる裁判員へのサポートもまだ十分とはいえない。
「辞退者が多いのは当然。やってみたいと思っても、仕事を休める人は限られる」。2月に大阪地裁で開催された裁判員経験者と法曹関係者との座談会。裁判所側から辞退率の高止まりについて意見を求められた裁判員経験者の男性はこう言い切った。
裁判員法などは、裁判員に選ばれた従業員が必要な休みを取ることを認め、企業側にはそれによる不利益な扱いをしないことを求める。ただそれ以上の対応は企業任せとなっている。
厚生労働省の委託調査では、裁判員休暇を導入している企業は半数ほどにとどまる上、その間を有給扱いとしている企業はさらに少ない。
裁判員には18歳から選ばれる可能性があるが、学生裁判員が授業やテストを欠席する場合の救済ルールを定めていない大学もある。
精神面のケアも課題だ。兵庫県稲美町で小学生の兄弟2人が犠牲になった放火殺人事件の裁判員裁判は今年2月、検察側の死刑求刑に対し、懲役30年を言い渡した。判決後に会見した裁判員らは判断に臨む重圧を口にし、悩み抜いた結論も交流サイト(SNS)上で「(量刑が)軽すぎる」とバッシングを浴び、「嫌な思いになった」と打ち明けた。
安倍元首相銃撃事件を巡っては、殺人罪などで起訴された山上徹也被告の量刑減軽を求める署名用紙が段ボールで奈良地裁に届き、当初不審物とみなされて山上被告の公判前整理手続きが中止になったことも。今後の公判期日では、裁判員がさまざまなプレッシャーにさらされる可能性は否定できない。
裁判員制度に詳しい専修大の飯考行教授(法社会学)は「裁判員に選ばれる確率は低く、体験談を聞く機会も少ないため身近な制度になっていないのが現状。理解が広まれば信頼も醸成され、批判も少なくなるのではないか」と指摘。既存の相談窓口の活用に加え、臨床心理士を配置するといった対応策を挙げ、「審理内容によっては裁判員が大きく動揺する事態も起こり得る。プロのサポートが求められる」と話した。

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