小林製薬(大阪市)の「 紅麹 」成分入りのサプリメントを巡る健康被害問題は、原因物質の特定が難航している。同社が製品の自主回収を発表してから22日で2か月。原料からは当初、青カビが作るプベルル酸が検出されたが、その後も複数の化合物が見つかるなど、原因の究明は長期化の様相を見せている。(松田俊輔、村上和史)
同社が「紅麹コレステヘルプ」などを摂取した人から腎臓障害などの健康被害が出ていると公表したのは3月22日。同29日にはプベルル酸がサプリ原料に含まれていたことを、厚生労働省などが公表した。
厚労省は、4月19日には「他にも複数の化合物が見つかっている」と説明。5月21日の報道機関向け説明会では、これらの化合物について「(分子)構造が見えてきている」などと 進捗 状況を説明したが、特定には至っていないという。
特定作業は国立医薬品食品衛生研究所(川崎市)などが中心となって進めている。〈1〉サプリ原料の成分分析〈2〉混入経路の解明〈3〉毒性の評価――を行い、その結果を総合して原因物質を突き止めるという流れだ。
〈1〉では、被害が出たサプリ原料のうち、本来含まれていない成分を「候補化合物」として、物質名などを特定する。候補化合物が絞られれば、〈2〉の混入経路の解明へと進む。
だが、サプリ原料には膨大な種類の物質が含まれており、難易度は高い。厚労省によると、見つかった複数の候補化合物の特徴を示すデータを、既知の様々な化学物質が登録されたデータベースと照合したが、プベルル酸以外は特定できず、未知の物質である可能性も浮上している。
未知の物質の場合、詳しい構造を調べる高度な分析が必要になる。
〈3〉の毒性評価では動物に候補化合物を投与し、毒性の強さや腎臓への影響を調べる実験を行うが、どのような動物を使うか、人の症状とどのように比較するかなど、検討課題は多い。
食品分析に詳しい園田学園女子大の渡辺敏郎教授(食品学)によると、未知の物質の場合、〈1〉や〈3〉の実験に使う量の調達が大きな課題になるという。調達はサプリ原料から抽出することになるため、渡辺教授は「効率よく抽出する条件なども調べなければならず、実験量は膨大になる。どの段階も時間がかかるので、原因物質の特定には半年~1年くらいかかっても不思議ではない」と話す。
厚労省によると、5月20日時点で5人が死亡し、276人が入院した。厚労省は5月末をめどに、原因究明の現状について発表する見通しだ。
機能性表示 見直し提言へ…消費者庁有識者検討会
機能性表示食品制度のあり方を議論している消費者庁の有識者検討会は、制度の見直しを提言する方針を固めた。医師の診断を受けた健康被害を事業者が把握した場合、食品との因果関係や症状の軽重にかかわらず、全ての被害情報を速やかに行政機関に報告させることなどが柱。近くまとめる提言では、報告を法令で義務づけることも求める見通し。
小林製薬は紅麹サプリを機能性表示食品として同庁に届け出ていた。同社は1月半ばに問題を把握しながら、国や自治体への報告は2か月以上後だった。
同庁は制度見直しに向け、医師ら9人の専門家による検討会を設置し、4月から議論を重ねてきた。
現在も健康被害に関するガイドライン(指針)はあるが、報告は義務づけられていなかった。