移植体制整備遅れに待機患者「間に合うのかな、明日死んじゃうかも」…米は分業も進み同時に3件実施も

[移植逼迫]<上>

脳死者からの臓器提供の増加に伴い、臓器を受け入れる移植施設の 脆弱 さが問題になっている。救える命を救うには、提供をさらに増やし、 逼迫 した移植医療体制を充実させる必要がある。そのために、国や医療機関、あっせん機関は何をすべきか。移植先進国の米国や韓国の取り組みをヒントに探る。
鼻のチューブから吸入する酸素の量は、日に日に増えていく。「病気の進行が速くて。移植は間に合うのかな」
5月上旬、肺の難病で療養中の女性が、自宅アパートのベッドの上で声を絞り出した。女性は、東京大病院での肺移植を希望して、臓器あっせん機関「日本臓器移植ネットワーク(JOT)」に登録している。
頭から離れないのは、移植施設で、脳死者から提供された臓器の受け入れを、人員や病床の不足で断念する例が相次いでいるとする一連の報道だ。日本移植学会の調査によると、東大など3大学病院で2023年に計62件の断念例があった。
あっせん順位は重症度や待機期間など厳格な基準により決まっているのに、移植施設の事情で、患者は、貴重な移植の機会を失うことになった。
「明日死んじゃうかも、と思って毎日を過ごしている」。国に事態の改善を要望したい。でも今は、姿勢を変えるだけで胸が痛み、苦しくなる。

日本では22年、心臓、肺、肝臓、 膵臓 、腎臓で計451件(心停止下を含む)の移植手術が行われた。先進国では最低レベルにある。米国の手術件数は、日本の80倍に上る。
米中西部オハイオ州クリーブランド。中心地から車で約20分の場所にある大規模病院「クリーブランドクリニック」は、臓器移植で米国内有数の実績を誇る。
肝臓移植手術は7人の外科医が担い、昨年は235件実施した。外科医の一人、藤木真人さん(48)は「同時に3件の移植手術を進められる。日本に比べ、分業も進んでいる」と話す。病院側の理由で臓器の受け入れを断念することは「ほとんどない」とする。
病院が移植体制を整えるのは、収益性が高いからだ。米コンサルティング会社「ミリマン」の報告書によると、臓器移植で医療機関などに支払われる総額(2020年時点)は、例えば心臓1件で166万ドル(約2億6000万円)に上る。
各病院の手術件数や患者の待機期間、移植後の生存率などのデータはウェブサイト上で公表される。米国の臓器あっせん機関「全米臓器配分ネットワーク(UNOS)」は3年に1回、各病院を監査し、求める水準に達しているかをチェックする。成績は病院の評判に直結するため、病院経営幹部は常にデータを意識しながら戦略を立てるという。

日本で起きている断念問題は韓国の移植医療界にも衝撃を与えた。
5月下旬、韓国トップの移植手術実績を持つソウルアサンメディカルセンター。本紙記者が、東大などで起きている断念問題を報じた英字新聞を示すと、 黄信 ・臓器移植センター長ら5人は困惑の表情を浮かべた。
大韓移植学会理事長でもある黄氏は、「私たちは東大や京大から移植のシステムを学び、取り入れてきた。日本には高い技術があるのに、受け入れ態勢が整わずに手術ができなかったとは信じられない」と語った。
同メディカルセンターには、専用の集中治療室(ICU)があり、平日の夜間や土日は移植手術に対応する当直も待機する。韓国では、移植手術を行う病院は格上とみなされるという。黄氏は「病院全体で移植をとても重要と捉え、誇りを持って体制を整えている」と強調する。
一方、日本で移植手術の実績が上位にある東大でさえ専用ICUはなく、赤字になることも珍しくない。がんや救急の患者の診療との両立を図るなかで、臓器受け入れを断念せざるをえない状況に陥っている。

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